月曜日, 12月 20, 2010

映画『武士の家計簿』を観る

この映画を製作する発端は「金沢を舞台にした映画を作ってもらいたい」という地域起こしの依頼だった。ここ数年、地方都市を舞台にした映画が多い。私が好きな藤沢周平原作の映画はその舞台がすべて海坂藩(庄内藩)であり、そのおかげもあって鶴岡や酒田は観光客が増加している。また、吉村昭原作の『桜田門外ノ変』は水戸藩の地元である水戸市などの出資と協力で作られた映画である。

で、『武士の家計簿』である。もちろん舞台は金沢である。主人公は加賀藩の御算用者(会計担当係)の猪山家。第七代猪山信之(中村雅俊)は江戸の加賀藩上屋敷の赤門(東大赤門)を安く作ったことが自慢の下級武士。その息子・直之(堺雅人)はソロバン馬鹿と言われるほどのクソまじめな男。そして、その息子・成之(伊藤祐輝)は明治維新後に海軍主計大監まで出世する。

しかしながら、この映画は単なる地域起こしの映画ではない。また、単なる時代劇ではない。竹刀による殺陣こそあれど、刀による切り合いはない。それでいて、時に滑稽な場面はあるものの、緊張感に満ちている。そして、キャスティングがいい。主演の堺雅人と仲間由紀恵は的を射ているうえ、両親を演じる中村雅俊と松坂慶子、おばばさまの草笛光子、義父の西村雅彦など絶妙のキャスティングである。

森田芳光の演出は家族やその絆を淡々と描いているのは評価できるのだが、子供を描くときに難点がある。「鯛じゃ、鯛じゃ」というセリフはかなり突発的に出てきたし、銭を犀川に戻すシーンにも無理を感じる。子供の無邪気さを描くのも大事かもしれないが、残念ながら映画の流れに沿っている演出とは思えない。

この映画の最大の功績は、やはりなんといっても久しぶりに「チャンバラのない時代劇」を作り上げたことであろう。この成功は新たなる時代劇の鉱脈を探し当てたといっても過言ではない。時代劇といえばチャンバラ、という固定観念を完全に崩したのである。今後はこの映画の主人公であるソロバン侍のように、いろいろな役職の侍を主人公にした映画が作られる可能性がある。新たなる時代劇の幕開けを観た思いでもある。

『武士の家計簿』
http://www.bushikake.jp/index.php

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