昨日(20日)は赤坂会館稽古場(本来は赤坂芸者のお姐さんたちが踊りの稽古をするところ)で開かれた「春風亭正太郎百貨店 赤坂支店 歳末大感謝祭五夜」の第四夜を聞く。春風亭正太郎は1981年目黒区生まれの二つ目。限定60席の会場はほぼ満員。演目は下記の通り。
入船亭扇ぽう 「寿限無」
春風亭正太郎 「堪忍袋」
入船亭扇遊「 棒鱈」
〜 仲入り 〜
扇遊・正太郎 対談
春風亭正太郎 「死神」
開口一番の前座・入船亭扇ぽうは入船亭扇遊の弟子。イガグリ頭にして童顔。あとで春風亭正太郎に「定吉(落語に出てくる丁稚の代名詞)みたいでしょ」といわれるが、今回が寄席以外の高座は初めてということだったらしい。それでも、さして緊張することもなく入船亭一門が最初に習うという『寿限無』を実直に好演。
「堪忍袋」は熊五郎とおかみさんの口喧嘩の仲裁をするために作られた‘’堪忍袋‘’が近所中に大評判となり、最後は商家のお嫁さんがその袋に姑の悪口を言うまでに、ということを描いたお話。作者は明治大正の実業家にして劇作家でもあった益田太郎冠者。正直、お話はたわいもない。しかし、それをいかに面白く演じるかが落語である。春風亭正太郎は緩急の抑揚をつけながら、噺を巧く進めていく。特におかみさんの嫉妬する表情や喋りは滑稽。彼にはこの噺が合う。あと蛇足だが、マクラで正太郎と奥さんが京都旅行に行った時に正太郎が「鳥獣戯画、見に行かない?」と言ったら、奥さんは「なんでそんな大容量のスマホが欲しいの」と。これには腹を抱えた。
ゲストの入船亭扇遊は今年3月に芸術選奨を受賞。もはや誰もが認める落語名人の一人。そして、その芸はあくまで清麗にしてスマート、そしてシックである。マクラ以外では余計なことをほどんど喋らない。下手な下ネタなどを入れない。とにかく格好いい落語家である。その師匠が意外にも「棒鱈」を披露。その話ぶりは小気味よく、前座や二つ目が演じる「棒鱈」とは一味も二味も違う。酒を飲むさま、胡椒でくしゃみをする仕草は秀逸で名人ならではと感心させらる。
対談では正太郎の師匠である春風亭正朝がまだ学生で、前座だった扇遊師匠の話を批評されて、師匠はムカついたといい、その正朝師匠が5代目春風亭柳朝に入門して寄席で会った時に「お前かあ」と叫んだのは爆笑モノ。これには、弟子の正太郎が平謝りでおかしかった。
正太郎の「死神」は決して怖くない。なったって、呪文が「アジャラカモクレン、アパマンショップ、テケレッツのパー」である。風刺をきかせていることによって、話がちょっと現実的になってしまう。それゆえに、話の比重はどうしても死神より一攫千金を求める男の方にいってしまう。それゆえか、男が商家で値段を吊り上げていく貪欲さや、枕元で死神が寝てしまう描写などが傑出している。これまでに春風亭小朝や柳家喬太郎が演じる怖い「死神」を聞いてきたが、正太郎のようにさっぱりした「死神」も悪くはない。ただ、もっと強欲な医者になった男の弱さをもう少し際立たせてもらいたかった。いずれ正太郎が真打になってからの「死神」を聞いてみたい。
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