一昨日(29日)は新宿末広亭で開かれていた8月下席・夜の部(九日目)を聞いてきた。主任(トリ)は林家正雀。正雀は林家彦六最後の弟子。彼は怪談噺を得意としていて、また今はほとんど演じられなくなった芝居噺(演劇仕立て)を行ったりする稀有な落語家。出演者と演目は下記の通り。
柳亭市遼 「狸の鯉」
古今亭佑輔 「つる」
ストレート松浦 (ジャグリング)
古今亭圓菊 「桃太郎」
柳家小せん 「金明竹」
アサダ二世 (奇術)
金原亭馬生 「あくび指南」
柳家三三 「看板のピン」
柳家小菊 (俗曲)
柳家花緑 「岸柳島」
〜 仲入り 〜
鏡味仙四郎・仙成(大神楽)
三遊亭白鳥 「アジアそば」
春風亭一朝 「芝居の喧嘩」
林家正楽 (紙切り)
林家正雀 「江島屋騒動」
〜「奴さん」
5月の鈴本演芸場へ行って以来だから約3ヶ月ぶりの寄席。寄席の醍醐味というか面白味は演者が何をやるか分からないところにある。その意味において昨日の末広亭は意外な人が意外な演目を演じるんだなあと思い知らされて興味深かった。
前座の柳亭市遼、二ツ目成り立ての古今亭佑輔にとってはまだまだ寄席は修業の場。本来ならば真打が登場する前に場を温めることをする役目だが、残念ながらそれはできず。その煽りを受けたのかジャグリングのストレート松浦は少しやりにくそうだった。しかし、古今亭圓菊の「桃太郎」からはそれぞれが持ち味を出すというか、演者誰もが寄席を楽しんでいて生き生きとしていた。
圓菊は昔話をめぐる親子の認識の違いというかズレをおもしろおかしく表現。柳家小せんは「金明竹」のクセのある関西弁のイントネーションを自らが楽しむかのように話す。金原亭馬生も「あくび指南」をこれまた楽しみながら快活に話し、コロナから復帰した柳家三三はとても堂々とした「看板のピン」を演じて、普段とは違う一面を見せてくれた。三味線の音色がいつも美しい小菊姐さんの後、前半のトリだった柳家花緑は、武士と町人の丁々発止を時に緊張感に満ち、時に弛緩的にと巧みに演じる。
仲入り後は大神楽に続いて、三遊亭白鳥が自作の「アジアそば」を披露。話の内容はインド人の蕎麦職人の噺。話の展開はだいたい想像がつくかもしれないが、宗教ネタも入れてシュールでかなりの秀逸な作品だ。春風亭一朝の「芝居の喧嘩」は幡随院長兵衛の一派と水野水野十郎左衛門の話。ただし、これは講談をちょっと茶化した噺でもある。紙切りの林家正楽の後はトリの林家正雀が怪談噺を「江島屋騒動」をかける。深川佐賀町で医者をしていた倉本玄庵。医者の不養生であっけなく亡くなる。残された美人妻と娘は故郷に戻るが、土地の者に悪さをされるという噺。初めて聞く私だった上に、結構難解な噺で理解するのが難しかった。ただし、正雀の怪談噺にかける姿勢には圧倒された。ところがなぜか口演後は「奴さん」を踊って明るくお開きとなった・・・!?。