東京の気温が今年最高の37.7度を記録した7日(金)夜に日経ホールで開かれた第32回大手町落語会を聞いてきた。出演者および演目は下記の通り。
入船亭小辰 「子ほめ」
柳亭左龍 「野ざらし」
柳家喬太郎 「同棲したい」
〜 仲入り 〜
入船亭扇辰 「さじ加減」
柳家さん喬 「唐茄子屋政談」
この日は高座返し(座布団のひっくり返し)&メクリは辰のこと、小辰の2人は入船亭扇辰の弟子。そして、左龍と喬太郎は柳家さん喬の弟子。ということで、喬太郎曰く「扇辰一門とさん喬一門の頂上決戦」。ただし、喬太郎と扇辰は同学年生で、2人会をやっている。
開口一番の小辰は実直な感じで、「子ほめ」を淡々と演じる。一番弟子ということもあるが、今後は師匠同様に古典落語の王道を突き進んでいくのではないだろうか。
柳亭左龍。どことなく舞台役者、深沢敦に似ている。顔もそうだが、高い声もそっくりである。マクラは出ばやしの太鼓叩き。前座ならば誰も通らねばならない道だが、太鼓の音色にはその人の人となりが出ると。確かにそうだろう。では、いったい誰が太鼓叩きが一番上手いのだろうか。いつか真打の師匠たちによる「太鼓叩き会」でもやってもらいたい。本題の「野ざらし」は個人的にさほど好きな演目でないので、サラッと聞いてしまった。失礼。
喬太郎のマクラがやたら長い。「だって持ち時間が長いんだもの」と白状。で、そのマクラはまず初めに9月6日に湯島天神で行われる落語協会主催による「謝楽祭」の宣伝。「なにぶん私が実行委員長なもんで」と。w 次に昼1時に春日部と夜7時に新宿が高座がある日に、昼3時に六本木でもう一席と頼んでくる事務所に対する愚痴。「“地の果て”春日部で高座を終えると会場前にタクシーが待っているんですよ。しかし、春日部の運転手さんですよ、六本木で迷ってしまう」と。w 続いて、福井県の芦原温泉に行ったときにソースカツ丼を食べようとしたが、店には「今日から3連休」の張り紙が・・・、「そこをなんとか」と泣きを入れる。で、本題の「同棲したい」は70年代『神田川』の世界で、2人で日清ソース焼きそばを食べるというようなお話。ソースつながりであった。w
扇辰は先日84歳で亡くなられた9代目入船亭扇橋の弟子。兄弟子には扇遊、扇治らがいて、この一門はみんな上手い。「さじ加減」は医者の阿部玄益が身請けのつもりで、病になってしまった馴染みの芸者を善意で治すものの、元締めは証文がなければ身請けにならないと一悶着が起きる。それを最後は大岡裁きで元締めを懲らしめるというお話。扇辰はこの典型的な江戸ものを、小気味よく粋な話しぶりで聞かせる。爽快感がたまらない。
今の落語会にあって人情噺や廓噺をさせたら、さん喬の右に出る者はいないと思う。「唐茄子屋政談」は遊びすぎて勘当された若旦那が、叔父の八百屋で働くことになり、唐茄子(カボチャ)の棒手振りを行い、改心していくというお話。彼の噺しぶりを聞いていると江戸の情景が目に浮かぶ。江戸の町屋や長屋の風景が見えてくる。そして、そこに住む人たちが目の前にいるかのようである。以前は小三治を聞かずして落語を語るなかれ、と思っていたが、今はさん喬を聞かずして落語を語るなかれ、という気持ちでいる。
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