新選組の名を知らない人は誰もいないが、新徴組の名を知っている人はほとんどいない。新選組が京都市中警護を行ったの対して、新徴組は江戸市中警護で活躍し、不逞の輩(浪人やカブキものなど)を取り締り、江戸庶民に非常に感謝された。
新徴組とは新選組と同じく、清河八郎らが作った浪士組を母体としていて、1862年(文久2年)に結成された江戸幕府による主に江戸市中を警備する組織である。屯所は江戸の本所(東京都墨田区)に設置されていたが、1864年(元治元年)からは庄内藩御預かりとなった。大政奉還後に解散するものの、多くの隊士は家族と共に庄内藩へ移った。そして、庄内藩に入った新徴組隊士たちは湯田川温泉の旅館や民家37軒に分宿。1867年(慶応4年)に庄内藩第四大隊に配置され、戊辰戦争で新政府軍と戦い連戦連勝の活躍をした。
さて、本のレビューである。主人公は沖田総司の義兄、沖田林太郎。江戸にありがならも京都にいる病弱な弟・総司のことを想いながらも新徴組の任務をこなしていく。もう一人の主人公は庄内藩の重臣(庄内藩第二大隊・大隊長)の酒井吉之丞。庄内藩きっての切れ者といわれるが、外見も性格も至極穏やかだが、いざ戦いとなると鬼と化す。
物語は第1部が京都と江戸、第2部が庄内を舞台にしている。江戸では市中取締だけでなく狼藉を働いていた浪士を匿った薩摩藩邸焼討ちの先鋒を担うなど、江戸では泣く子もだまる存在となっていく新徴組の姿と沖田林太郎の家族を大事にする生き様を描く。第2部は仙米会庄(仙台藩、米沢藩、会津藩、庄内藩)などが結成した奥羽列藩同盟の主軸として新政府軍と戦い、新政府軍から「鬼玄蕃」と怖れられた酒井吉之丞の活躍などが描かれる。
幕末の歴史小説というとそのほとんどが薩長土肥の新政府軍から書かれたものばかりだが、この小説は仙米会庄の奥羽列藩同盟の視点から描かれていて大変興味深い。また、小説には沖田総司、土方歳三や西郷隆盛らしき人物なども登場して娯楽性にも富んでいる。ただ、佐藤賢一の文章は司馬遼太郎、藤沢周平、吉村昭らに比べるとクセがあり、慣れるのに時間がかかった。
それにしても、酒井吉之丞は実に魅力的な人物である。藤沢周平に彼の生涯を描いてほしかった。
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