『百日紅』は杉浦日向子の代表作である。そして、江戸もの漫画の最高傑作の一つといっても過言ではないだろう。その映画化ということでかなり期待して観に行ったが、原作を何度か読んだ者としては正直ガッカリであった。
アニメの映像美として、江戸情緒や葛飾北斎の世界はうまく描いている。しかしながら、話の展開が原作をうまく活かしきれておらず、登場人物にしても少し醒めていながらも温かく描いているとはいえ、杉浦日向子の世界がもつ浮遊感というか浮世感を描ききることはできていない。
脚本はどうして話のメインを主人公であるお栄と盲目の妹・お猶(なお)の交流においてしまったのだろう。そのために、原作では生き生きしている池田善次郎(後のり渓斎英泉)や歌川国直などがまったく描ききれていない。また北斎に関しても単なるジジイでしかなくなって、原作にある北斎と娘の葛藤や苦悩などがかなり希薄である。そして、善次郎や国直の出番が少ないことによって滑稽さもまったくない。加えて、江戸の活気市井の人々の活気や生活感も垣間見ることができない。
あと、声を担当した俳優たちもちょっと棒読み的なところが多かった。これならば、今度はぜひともテレビドラマか実写版映画の『百日紅』を観てみたい。
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