以前にも書いたが私は日本料理店を予約するときは必ずカウンター席をお願いする。「紀風」はL字カウンター6席と4人用個室が2つというお店なのだが、私たちが訪れたときは天気予報のせいもあり、幸運にもカウンター席を2人で独占するというか、結局はお店貸切状態で食事をすることになってしまった。こうしたお店側からすれば不幸な状態にもかかわらず、店主とスタッフは心の籠った献立を提供してくれた。
先付 栗、えのき、帆立ての和え物
八寸 〆鯖菊花ジュレ、鱧卵塩辛、柿・春菊胡麻和え、鴨スモーク・卵黄味噌漬
お椀 菱蟹真丈、松茸
お造 淡路産真鯛、気仙沼産鰹、鵡川産ホッキ貝、兵庫産鮟肝
焼物 鴨川産ノドグロ杉板焼、柚子大根、焼椎茸
しのぎ イクラすり流し寿司
焚合せ 昆布森産牡蠣の蕪おろしみぞれ仕立て
食事 きのこ御飯と香の物
甘味 柚子プリン、グリーンティアイス、梨のコンポート
日本酒
・善知鳥【うとう】(青森)
・天の戸 美稲【うましね】(秋田)
・杉錦(静岡)
・俵雪(山形)
先付は手の込んだものではないが、私らが飲兵衛であることを見透かしたような一品で、私はとりあえずの「生ビール」を一気に、相方は白ワインの「サンセール」をサラッと飲んでしまった。そして、続いて登場した秋の風景に彩られた八寸は、私に「早く日本酒を飲め」と言わんばかりの品々。なかでも、初めて食した鱧卵の塩辛は日本酒にはぴったりの珍味。鱧を扱うお店のみなさん、これからは鱧の卵は捨てることなく塩漬けなどにして、美味しい料理に変貌させてください。お願いします。あと、卵黄味噌漬、〆鯖菊花ジュレも頬が落ちるどころか、唇がとろけるような美味しさだ。飲兵衛にこういうものを食べさせてはいけません。(笑)
焼物はテニスの錦織圭くんの一言で品薄となってしまったノドグロ。これはもちろん美味しいのだが、それにも増して炭火で蒸し焼きにされた椎茸が絶品。傘に炙りだされたエキスは椎茸がこんなに旨いものなのかを再認識してくれるような料理。思わず心のなかで「椎茸さん、ごめんなさい。今後は自宅でももっと美味しく料理します」と懺悔してしまった。しのぎのイクラすり流し寿司は寿司ご飯があるから、こういう名がつくのだろうが、主体はあくまでもイクラを半熟にゆでて、濾したスープのようなものである。これまた表現のしようがないトロトロ感のある美味しさ。ワンダフル!
焚合せは大粒の北海道昆布森産の牡蠣が3つも入った蕪おろしみぞれ仕立て。仄かな柚子の香りも優しく、お浸しのようなほうれん草にもしっかりと味が加わっていて、献立後半に出てくる料理としてはもったいないぐらい。食事のきのこ御飯には平茸、花びら茸、山えのき、舞茸が入っている。これで松茸も入っていたらと思うのはちと贅沢すぎるか・・・。
店主の城田澄風さんは天ぷら店と京料理店で修行をされたそうだが、その人柄というか料理に対する美意識の高さに関心させられた。出された器は各地の銘品であることはいうまでもないが、壊れたものも金継ぎして再利用している。いくつかの金継ぎの器を見せていただいたが、お猪口や醬油挿しなどは以前より風情も価値もあるのではないかという感じであった。
開店して1年半ということで、お店は少し落ち着いたころかもしれないが、今後も感性豊かな和の美学を追究して美味しいものを作りつづけていくに違いない。また、再度訪問しなければならない店に出会ってしまった。困ったものである。(苦笑)
紀風
http://ebisu-kihuu.com/
紀風 (懐石・会席料理 / 恵比寿駅、広尾駅)
夜総合点★★★★☆ 4.6
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