月曜日, 6月 25, 2007

名演奏だったN響&清水和音のラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番

一昨日(23日)NHKホールでのN響第1596回定期公演に行ってきました。指揮は来週の定期公演でN響音楽監督を退任するウラディーミル・アシュケナージ。ピアノは清水和音。清水は1981年に弱冠20歳でパリのロン=ティボー国際コンクール・ピアノ部門で優勝。翌年にはN響と初共演するなど、20年以上にわたって国内外で活躍している日本を代表するピアニストのひとり。

演目
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番ニ短調
チャイコフスキー/交響曲「マンフレッド」

この日のNHKホールは普段の高齢者だらけの定期公演とは違い、若い女性の実に多いこと。土曜にもかかわらず制服姿の女子高生までいる。さすがラフマニノフである。もちろん私のお目当てもラフマニノフだが、とりわけアシュケナージの指揮にあった。というのも、アシュケナージはラフマニノフのピアノ協奏曲作品集を出しているピアニストであり、当代随一ラフマニノフを熟知している音楽家であると思っているからである。そのアシュケナージがピアノを弾くのでないにしろ、どう指揮するのかを期待しないわけにはいかない。

第1楽章。冒頭のソナタの部分は清水は蚊の鳴くような弱音から始める。か弱い音が観客の息を止めて、場内には一瞬にして張りつめた緊張感が漂う。その音色は甘美でない。耽美でもない。少し機械的な音にすら感じる。しかし、指揮のアシュケナージは全く動じない。ファゴットやクラリネットの音色を優しく導いてピアノ音色を引き立ていくようにする。そして、ロシア正教会の聖歌から採られとされる主旋律のピアノのソロに入ると、清水のピアノは奏でる、響く、そして歌う。いや〜、ラフマニノフです。超絶技巧もなんのその、ピアノの優しい音色が無味乾燥としたNHKホールに花の香りを漂わせるように鳴り響いていく。観客は完全にラフマニノフの世界にうっとりだ。私の前に座っているお姉さんはすでにハンカチで目頭を抑えている。

第2楽章。ここは間奏曲だ。ピアノの腕の見せどころである。清水は哀愁たっぷりに、そしてロマンティックにラフマニノフの世界を奏でる。

第3楽章。冒頭の行進曲風の旋律では清水が奏でる音は繊細であるが少し力強すぎるきらいがある。しかし、アシュケナージはここでもビクともせずオーケストラをコントロールして、清水を少し抑えていく。しかし、クライマックスでは今度は馬のたずなを弛めるではないが、アシュケナージは清水に思いっきり弾かせる。二人の呼吸が完全に合っている。清水もアシュケナージにサインを送るかのようにピアノを返していく。凄い凄い。ちょっと興奮してくる。アシュケナージの指揮を期待したかいがあった。目論みが当たった。私の涙腺もゆるんできてしまう。

また、あまり期待していなかったチャイコフスキーの交響曲『マンフレッド』も良かった。失礼な言い方かもしれないが、普段はあまり感心しないトランペットやトロンボーンなどが特に良かった。夏の吹奏楽が楽しみになった。

終演後、若い女性が舞台下に駈けよってアシュケナージにプレゼントを渡した。芝居などではよく見かける光景だが、N響のコンサートでは初めて目にした。アシュケナージの指揮を揶揄したり快く思わない人はかなりいるが、私はプレゼントをもらって軽く投げキッスをするお茶目で愛嬌のあるアシュケナージが結構好きだ。指揮者としての力量は別にしても、彼はこの3年間にN響に大きな刺激を与えたと思う。3年間でチャイコフスキーの交響曲をすべて指揮したが、今思えばラフマニノフの交響曲と協奏曲もすべて指揮して欲しかった。

話は少しずれるが、私はこれまでDVDの録画再生機をもっていなかった。2〜3週間前から買おうか買うまいか迷っていた。しかし、昨日の演奏会を聴いているうちに、買おうと120%決心した。それはこの演奏が近々BSおよびハイビジョンで放送されるのだから、それを録画して再度聴いてみたいと思ったからである。こんな衝動にかられるぐらいだから、間違いなく名演奏会であった。そしてもうひとつ余談だが、ちょっと興奮した私は家路につく前に下北沢の友人の店で一杯、そして、地元の学芸大学のお店で一杯飲んでしまった。こんなことも久しぶりである。

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

清水和音さんへのプレゼントはなかったのですか?

小松克彦 さんのコメント...

清水さんへのプレゼントはありませんでした。

匿名 さんのコメント...

清水さん、かわいそうに。昔はかっこよくて、花束やプレゼント、沢山もらっていたのにねぇ・・。