バブルという時代があった。基本的に80年代半ばから90年代前半、詳しくいえば1986年12月から1991年2月までの4年3ヶ月間というのが通説になっている。ただ、私が仕事をしている出版界は94年までは売り上げが落ちておらず、その恩恵を他の人たちより長く受けていた。
そんな80年代後半から90年代半ばにかけてのバブル時代に、私はよく「一人缶詰め」と称して、ホテルを利用していた。「一人缶詰め」と言っても、私は編集者だったので原稿を書くわけではない。企画を考え、それを整理して企画書にするだけのことである。そんなことをするのに、なんでホテルの部屋が必要なのかというと、自分の仕事場ではなかなか思い浮かばないアイデアを捻出することや発想転換を図るためである。仕事場には数多くの資料も揃っていて、仕事はしやすい。しかしながら、常に同じような場所にいると発想が貧困になってしまう。こうしたマンネリからの脱出をはかるために、ホテルの一室に入って「ああでもない、こうでもない」と無い知恵を絞りだしていた。
利用するホテルは大概は友人が務めている新宿か赤坂にあるシティホテルだったが、一番のお気に入りは箱根富士屋ホテルの花御殿だった。年に1回ぐらいしか利用できなかったが、ここへ行くと、なぜか仕事がめちゃくちゃに進んだ。
花御殿は1936年(昭和11年)に建てられた、外観に千鳥破風の屋根を持つ校倉造りの建築物。箱根富士屋ホテルの象徴的な建築物でもあり、登録有形文化財にも指定されている。花御殿の名前の由来は全43室に花の名前が付けられていて、客室のドア、カギなど、細部に花のモチーフが使用されている。海外では「フラワーパレス」の名で通り、チャールズ・チャップリンやジョンレノンをなど数多く外国人が泊まっていて、その写真やサインはホテル内の資料室に展示されている。
それでは、なぜここが私のお気に入りだったかというと、第一に天井が高くて部屋が広いこと、第二に部屋に大きな机があること、第三にホテル内に散策するところがいっぱいあること、などからである。天井が高くて部屋が広いということは、アイデアを練るときには非常にありがたい。解放感に満ちた空間にいると、不思議と普段では考えつかないアイデアが出たりする。大きな机というのも便利なものである。自分の仕事場の机は大きくても常に物で散らかっている。しかし、何もない大きな机があると、一から仕事が出来るような不思議な錯覚に陥り、これまた不思議とアイデアが浮かんだりする。そして、ホテル内の散策はアイデアに行き詰まったときのちょっとした気分転換になる。
こうした理由から富士屋ホテル花御殿の部屋を利用していたが、今考えれば、やはり“バブル”だったような気もする。それでも、ここで考えた企画が単行本や雑誌の特集になったりしたのだから、一概に“バブル”だけではなかったかもしれない。
http://www.fujiyahotel.jp/stay/room_flower.html
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