月曜日, 2月 01, 2010

吉村昭著『桜田門外ノ変』(上下巻)を読む

上下巻の長編歴史小説の大作を1週間余りかけてじっぐりと読んだ。現在、この本を原作にした映画『桜田門外ノ変』(監督:佐藤純彌 主演:大沢たかお)の撮影が行われている。秋から冬にかけて全国200以上のスクリーンで公開予定とのこと。

さて、原作本の話だが、作者の吉村昭は水戸藩および主人公・関鉄之介の視点で話を進めていき、読者は知らず知らずと大老・井伊直弼憎しとなっていく。それは歴史小説にとっては客観的でないと批判を唱える人もいるだろうが、ぐいぐいと物語のなかに引き込まれていき、主人公の葛藤と心情が解るようになっていく。

桜田門外の変というと、安政の大獄を起こした井伊直弼を水戸藩士が桜田門外で暗殺したことまでは誰もが知っているが、この本を読むとこの襲撃が第二の“忠臣蔵”ともいう思われる話で非常に奥が深い。ただ、忠臣蔵に比べるとかなり血なまぐさを感じる。それは壮絶な斬り合いと自刃で数多くの死者が出たからだろう。

物語のなかには西郷隆盛、坂本龍馬、徳川斉昭、松平春嶽といった幕末の有名人たちが数多く登場する。また、女性との秘話もあり、なぜこれまでに大河ドラマに取り上げられていないのかが不思議くらいだ。第1回大河ドラマ『花の生涯』では井伊直弼の生涯を取り上げているが、この本のように水戸藩士のことを細かく描いていたのだろうか。

主人公・関鉄之介の人生はまさに波乱万丈である。なかでも、安政5年(1858年)から翌年にかけて、井伊直弼に対する諸藩の決起を促すため、越前藩・鳥取藩・長州藩へと旅にでるところが面白い。そして、襲撃の実行部隊総指揮官となり、事件後は1年半に及ぶ逃亡生活の果てに捕らえられ、最後は死罪となる。吉村はその逃亡生活を克明に描写していき、まるで自分が逃亡者のようになった気にすらさせてくれる。

司馬遼太郎は自著で桜田門外の変のことについて「史上希有な、歴史を前に動かす暗殺」と書いているが、実際にこの事件によって幕府の権威は失墜していき、時代の流れは8年後の明治維新へと突き進んでいった。

関鉄之介は間違いなく明治維新の立役者の一人である。映画の公開も待ち遠しい。

「桜田門外ノ変」映画化支援の会
http://mitoppo.jp/

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