木曜日, 4月 30, 2015

『夕映え』(作:宇江佐真理)を読む

文庫本上下巻530頁の長編。

時代は江戸から明治に移り変わるころ激動期。舞台は江戸・本所石原町(現在の墨田区石原)のおでんが評判の飲み屋「福助」。店を切り盛りするのは女将のおあき。旦那は元松前藩の武士だった岡っ引きの弘蔵。2人の間には武士に憧れを抱く息子・良助と近くの青物屋に嫁ぐ娘・おていがいる。そんな4人を軸に常連客や元同僚などを絡めながら、時代の潮流に翻弄されながらも慎ましくも逞しく生きる市井の人々を描く。

著者の宇江佐真理が函館出身ということもあるが、彰義隊による上野戦争から五稜郭の箱館戦争までの史実を教科書のようにつぶさに書いていき、武士だけではなく市井の人々がこうした歴史のなかにも巻き込まれていく姿を精彩に描いていく。そして、悲しみを乗り越えつつもありしたたかに生きる庶民の姿はある感動的であり、時代の波に立ち向かう人々の素晴しさを描いている。

終盤にタイトルになっている「夕映え」を夫婦で見るときの会話が切ない。
「いつの時代も生きて行くのは切ねェものよ。だから人は、昔はよかったと愚痴をこぼすのよ。昔だって、必ずしもいいことばかりがあった訳じゃねェのによ。過ぎたことは、皆、よく思えるんだろう」
「だったら、戦で右往左往したこともよく思えるようになるのかしら。あたしは決してそう思わない。江戸と明治の変わり際に良助が死んだ。何んで戦なんてするのよと、死ぬまで恨んで暮らすことでしょうよ」
「おう、いつものおあきになっぜ。その調子だ」

歴史は決して有名人物だけで作られているものではない。市井の人々も歴史を作っている。それを情感たっぷりに描いた秀作である。

火曜日, 4月 28, 2015

2015年(平成27年)目黒区議会議員選挙結果

一昨日(26日)行われた目黒区議会議員(定数36人)選挙の結果は下記の通りである。

      改選前  改選後
自民党   13   13
公明党    6    6
刷新めぐろ  4    3
(民主党)
共産党    4    5
生活ネット  1    1
無所属    5    6
維新の党        2
(欠員)   3

※女性議員  10   15

選挙後の勢力は正直さほど変わらない。安倍政権を支持している自民党・公明党は現状維持をした。一方で、刷新めぐろ(民主党)は現職の女性議員2人が落選した。理由は明らかである。区議会議員選挙は国政選挙とは違うと主張したことにある。一方で、選挙運動で徹底して安倍政権を批判した共産党は4人から5人へ議席数を増やした。そして4人が上位当選(10位以内)に入った。明らかにアンチ安倍票を得たということである。

区議会議員は本来政党所属の議員に関係なく区政をしっかりやってくれる人が当選するべきだと思う。しかし、今回の選挙はやはり右傾化する安倍政権に対する意識が表れた結果だった。というのも、安倍政権自体が「統一地方選選挙」で勝つことを定期大会で宣言していたからだ。

それにしても、投票総数の86264票のなかに10000票余が公明党(=創価学会)議員に投票されいた。これは有権者の21人に1人の割合である。目黒区にこれだけマインドコントロールされている人がいるかと思うとゾッとする。ちなみに公明党の女性議員はたった1人だけ。

できれば、みなさんも地元の選挙結果を分析してみましょう。

目黒区議会議員選挙(平成27年4月26日執行)開票結果
https://www.city.meguro.tokyo.jp/gyosei/senkyo/kugikaigiin/kaihyosokuho.files/kaihyoukekka.pdf

火曜日, 4月 21, 2015

美食日記「deco」(渋谷)

ジビエ料理を得意としている渋谷のフレンチ。場所は公園通り裏にあり、半地下階はジビエを主体にしたアラカルト料理を出すフロア。1階はウエイティング・バーにも使える「HYGGE」というお店。そして、2階はコース料理をいただくようになっている。この日は半地下階で下記のアラカルトを2人でいただく。

・アミューズ
・和田牛蒡のボタージュ、帆立貝のポワレを添えて
・木の上の鳩 〜キジ鳩のパテとパインのコンフィチュールサンド〜
・鹿、猪、熊”のパテアンクルート
・猪の自家製ベーコンと葉野菜、ブラウンマッシュルームのサラダ
・沖縄産カルガモのロースト、サルミソース
・苺”とちおとめ”のシャーベット
・(金柑のコンポートとジュレ コアントローのアイスクリーム)
・コーヒー

アミューズは鯖の酢漬けというかマリネ風とでも言おうか。さっぱりしていて美味しかった。「和田牛蒡のボタージュ、帆立貝のポワレを添えて」は、繊維質がちょっと強いボタージュに、北海道産の帆立貝のポワレが添えられていて、ちょっと風変わりな取り合わせ。「木の上の鳩 〜キジ鳩のパテとパインのコンフィチュールサンド〜」は石垣島の野生のキジ鳩をパテにパイナップルのジャムをパリパリの生地でサンドしたもので、それを木の上の鳩のように盛り付けしてある。ちょっと鳩サブレに見える。w

 

パテアンクルートとは肉や魚などを細かく刻んだりムース状にしたパテをパイ包みにして焼く料理。かなり時間がかかるだろうし調理も大変そうである。でも、酒飲みには堪らない美味しさ。鹿、猪、熊の混合味とパイのちょっとした甘みが絡みあって絶妙。もう少し食べたかった。w

 
メニューには熊の自家製ベーコンと書いてあったが、この日は残念ながら熊の在庫がなく猪のベーコンに。熟成されたベーコンの脂身は普段食べる豚のベーコンとさほど変わらないが、肉の部分は濃厚でずっしりがある。葉野菜の少し苦味と相まって美味しくいただいく。

カルガモというとどうしても子づれで道路などを歩いているイメージがあるが、場所によっては有害駆除に指定されているそうで、今回のカルガモも沖縄で駆除されたもの。これまでに青首鴨、山鶉、山鳩などのローストを食べたことがあるがカルガモは初めて。味は臭みとかはほとんどないが、さすがに野鳥だけあって肉が引き締まっている。

 

デザートは”とちおとめ”を使ったシャーベットと、霧島山麓のさくら農園で育った金柑のコンポートとそのエキスのジュレにフランス伝統の柑橘リキュール”コアントロー”のアイスクリームを添えたもの。甘党でないので、その良さはよく分からないが、どちらも美味しかった。


「deco」はお店の作りも雰囲気もカジュアルでいい。ワインもいいものを揃えていると思う。ただひとつ難点はナイフが使いずらいというか切りにくかった。ジビエは肉も弾力性があったり筋が固かったりするので、ナイフはやはり切れるものでないと困る。美味しい料理を出すのだからもう少しナイフにこだわりをもってもらいたい。

月曜日, 4月 20, 2015

目黒区議会は議員定数を減らせ!

統一地方選の一環として、目黒区議会議員選挙が告示された。

目黒区の人口は約27万人、有権者数は21.3万人。それなのに区議会議員は36人もいる。市町村議員はその自治体の規模によるが基本的に1万人以上に1人で十分なはずである。つまり、目黒区議会は27人で構わない。お隣りの世田谷区は人口約84万人対して区議会議員の定数は52人である。

それにしても、よくよく調べると区議会議員の実働時間は少ない。今年の目黒区区議会の開催期間は下記の通りである。

平成27年第1回定例会は2月19日〜3月23日の33日間
平成27年第2回定例会は(予定)6月17日〜30日の14日間
平成27年第3回定例会は(予定)9月3日〜29日の27日間
平成27年第4回定例会は(予定)11月20日〜12月4日の15日間

つまり、開催期間はトータルで89日間。約3ヶ月である。いろいろなお勉強期間を含めても実働期間は半年ぐらいだろう。それなのに議員報酬は月額約60万円=年間約720万円もある。議長にいたっては90万円ももらっている。このほかに賞与(約300万円)および経費が支給される。これが高いか低いかどうか考え次第だろうが、ただひと言いいたいのは、ほとんどの区議会議員はなんらかの副業もしくは副収入があるということだ。

ということで、私は区議会議員を減らす!と公約をする人に投票したいが、そんな人は果たしているのだろうか。

木曜日, 4月 16, 2015

柳の家の三人会@めぐろパーシモンホール

一昨々日(13日)はめぐろパーシモンホールで開かれた「柳の家の三人会」を聞いてきた。出演者と演目は下記の通り。

柳家緑君  『金明竹』
柳家喬太郎 『紙入れ』
 〜 仲入り 〜
柳家三三  『粗忽の釘』
柳家花緑  『二階ぞめき』

「柳の家の三人会」というのは柳家小さんの流れをくむ落語会であり、数多くある落語会のなかでも人気があり、チケットはほぼ毎回完売するという。今回も悪天候にもかかわらず客席はほぼ満席。

開口一番は柳家緑君。柳家花緑の弟子で二つ目。名前は「みどりくん」ではなく「ろっくん」。どういう名前の由来なのだろう。ロックンロールでもしていたのだろうか。で、この「ろっくん」、見習い1年前座3年二つ目としても5年というキャリアがあるだけあって、かなり堂にいっている。開口一番にもかかわらず『金明竹』を30分かけて演じる。

で、続いて登場した柳家喬太郎は「開口一番があんなに長いの珍しいですよね・・・。実は私が開演時間を間違えました」といきなり客席に向かって平謝り。その後は、間男話をいくつか絡めて不倫噺『紙入れ』をたっぷりと演じる。それにしても、喬太郎の女形語りは色っぽいというよりエロっぽい。そして、この人は新作を演っても古典を演っても、客を落語特有の胡散臭い世界に見事なまでに導いていく。本当に巧い落語家である。

柳家三三は十八番の一つ『粗忽の釘』をかける。長屋に住む大工が箒をかけるために釘を打つというたわいもない滑稽噺だが、三三はそれを語り手と演じ手を巧みに使い分けて、噺を飄々と進めていく。この飄々さが三三特有の世界である。前回『お化け長屋』を聞いたときは長屋の情景描写が希薄と感じたが、今回はしっかりと描写していて言うことなしであった。

柳家花緑は「祖父が永谷園のCMでお金儲けしてしまったので、私は祖父のように貧乏噺はできないけど、若旦那の噺なら祖父よりは上」と。ということで、自宅の二階に吉原を作ってしまうという『二階ぞめき』を熱演。落語界には二世三世が何人もいるが、彼も御多分に洩れず「親の七光り」的に脚光を浴びてきた。だた、それを徐々に脱却しつつある。スマートでありながらも泥臭さも身につけつつあるような気がした。今後の高座での活躍を大いに期待したい。

月曜日, 4月 13, 2015

新宿末広亭4月上席・夜の部(柳家小傳次真打襲名披露公演)

一昨々日(10日)新宿末広亭で開かれた4月上席・夜の部を聞いてきた。今回の上席は落語協会の新真打10人の襲名披露公演で、この日は柳家さん喬一門の柳家喬之進改め小傳次の襲名披露が行われた。なお、出演者と演目は下記の通り。

古今亭駒次  『初めての自転車』
柳家小菊   俗曲
三遊亭天どん 『老後が心配』
三遊亭歌る多 漫談と踊り
大空遊平・かほり 漫才
三遊亭金馬  『長屋の花見』
柳家喬太郎  『コロッケそば』(『時そば』?)
マギー隆司   奇術
林家正蔵   『松山鏡』
柳家さん喬  『そば清』
 〜 仲入り 〜
新真打口上
笑組(えぐみ) 漫才&南京玉すだれ
林家木久扇  『彦六伝』
柳亭市馬   『いも俵』
翁家和楽社中  太神楽
柳家小傳次  『粗忽の使者』

古今亭駒次は古今亭志ん駒門下の二つ目。師匠譲りの歯切れのいい語り口。柳家小菊は舞台裏をも支える三味線の小粋なお姐さん。

三遊亭天どんは三遊亭圓丈門下。天どんという名前の話がちょっとくどかったかな。でも、この名前は正直真打としは可哀想な気がする。なにせ、この日は襲名披露の名前が小傳次と粋ですからね。w 三遊亭歌る多は落語協会最初の女性真打。この日はお祝いということで踊りを披露。大空遊平・かほりはいわゆる夫婦漫才の典型でかほりがまくし立てて、遊平がボケて、結局はのろけるというパターン。

三遊亭金馬は落語界最長老の一人。芸歴76年で唯一の戦中派落語家というから長生きだ。膝を悪くしているということで見台を使ったが、噺は矍鑠としていてとても86歳とは思えない。90歳までは頑張ってもらいたい。柳家喬太郎は『時そば』をかけるのかなと思ったら、途中から立ち食いそば屋の噺に変わり、どうやら演目名は『コロッケそば』らしい。それにしても、彼の客を噺に引き込ませる話術は巧みだ。マギー隆司はもちろんマギー司郎の弟子。話し方は師匠と変わらないが滑舌に少し難がある。

林家正蔵はいわずと知れた林家三平の長男。こぶ平時代はちゃんとした落語家になれるのかなあと危惧している人も多かったが、正蔵の襲名後は精進したようで立派な落語家になった。ただ、同世代(例えば喬太郎や入船亭扇辰ら)に比べるとまだまだの感がする。仲入り前のトリはこの日の真打の師匠である柳家さん喬。寄席のさん喬も悪くはないが、やはり彼は落語会で大ネタを演じるときの方が魅力的だ。

さて、真打口上は客席向かって左側の下手側から司会の兄弟子・喬太郎、落語協会副会長の正蔵、相談役(ホント? w)の林家木久扇、喬之進改め小傳次、師匠のさん喬、落語界の長老・金馬、落語協会会長の柳亭市馬という豪華な顔ぶれ。それぞれの話は自分のことを絡めながらも、小傳次をご贔屓にという暖かいもの。最後にお客さんと一緒に三本締め。

襲名披露後はまず最初に私も好きな笑組(えぐみ)の漫才。しかし、漫才はほんの少しで襲名披露のお祝いということで南京玉すだれの芸を披露。普段はツッコミ役の太っちょのかずおだが、この芸ではトンボメガネのゆたかにツッコまれるのが可笑しかった。林家木久扇は天然なのか芸なのかよく解らない。困った人だ。でも面白い。柳亭市馬はさすがに落語協会会長のことはある。ちゃんと正統な噺をしてくれる。翁家和楽社中は翁家和楽と和助が太神楽を披露。

柳家小傳次は二つ目の柳家喬之進のときに聞いたことがある。なぜならば、彼が私と同じ目黒区出身とだからである。「目黒のさんま」のせいか目黒区出身の落語家は意外に多い。柳家小ゑん、春風亭正太郎など。で、この喬之進改め小傳次は何がいいかと言えば、その声である。艶があり通りもいい。滑舌も悪くない。顔も師匠が口上のときに「今は太ってしまいましたが、入門のときはこんな二枚目が落語家になっていいのか、と思った」ほどだったそうである。そして、芸風は師匠譲りの真摯な姿勢で好感がもてる。今後も精進してもらいたい。

それにしても、雨が降っているにもかかわらず末広亭は満員で2階席を開けるほどの盛況だった。

月曜日, 4月 06, 2015

『秘密』を読み、池波正太郎の格言に考えさせられる

『雲霧仁左衛門』『編笠十兵衛』に続いてまたもや池波正太郎の長編小説を読んだ。そして、考えさせられた。

丹波篠山藩の夏目小三郎は家老の仕打ちによって、敵討ちとみなされ逃亡生活を余儀なくされる。そのために、小三郎は医者・片桐宗春に成り代わり江戸市中に暮らすようになる。そこにいつしか追手が忍び寄ってくるというのが大筋だが、細部はいろいろ込み入っていて面白い。話の展開はとても小気味よいし、登場人物の描写も生き生きとして、感情移入することができるというより、自分がすっかり主人公の気分にさせてくれる。いわゆる剣豪小説というより、江戸庶民の生活を描く市井小説といった方がいいのかもしれない。

とまあ、小説の内容はこんなところなのだが、この小説のなかに書かれている池波正太郎の女性に対する格言が興味深い。なかでも下記の3つ文章には考えさせられた。

「女は、むかしの物事を忘れやすい生きものだ」
「男は過去にこだわり、女は過去を見向きもせぬ」
「女というものは、おのれが納得してぇがために、どんな嘘でも平気でつくのだ」

1番目の文章はどことなくそのような気がする。2番目は間違いなくそうだと思う。3番目は人により次第かと思う・・・。

さて、みなさんはどう思われますか。