一昨々日(10日)新宿末広亭で開かれた4月上席・夜の部を聞いてきた。今回の上席は落語協会の新真打10人の襲名披露公演で、この日は柳家さん喬一門の柳家喬之進改め小傳次の襲名披露が行われた。なお、出演者と演目は下記の通り。
古今亭駒次 『初めての自転車』
柳家小菊 俗曲
三遊亭天どん 『老後が心配』
三遊亭歌る多 漫談と踊り
大空遊平・かほり 漫才
三遊亭金馬 『長屋の花見』
柳家喬太郎 『コロッケそば』(『時そば』?)
マギー隆司 奇術
林家正蔵 『松山鏡』
柳家さん喬 『そば清』
〜 仲入り 〜
新真打口上
笑組(えぐみ) 漫才&南京玉すだれ
林家木久扇 『彦六伝』
柳亭市馬 『いも俵』
翁家和楽社中 太神楽
柳家小傳次 『粗忽の使者』
古今亭駒次は古今亭志ん駒門下の二つ目。師匠譲りの歯切れのいい語り口。柳家小菊は舞台裏をも支える三味線の小粋なお姐さん。
三遊亭天どんは三遊亭圓丈門下。天どんという名前の話がちょっとくどかったかな。でも、この名前は正直真打としは可哀想な気がする。なにせ、この日は襲名披露の名前が小傳次と粋ですからね。w 三遊亭歌る多は落語協会最初の女性真打。この日はお祝いということで踊りを披露。大空遊平・かほりはいわゆる夫婦漫才の典型でかほりがまくし立てて、遊平がボケて、結局はのろけるというパターン。
三遊亭金馬は落語界最長老の一人。芸歴76年で唯一の戦中派落語家というから長生きだ。膝を悪くしているということで見台を使ったが、噺は矍鑠としていてとても86歳とは思えない。90歳までは頑張ってもらいたい。柳家喬太郎は『時そば』をかけるのかなと思ったら、途中から立ち食いそば屋の噺に変わり、どうやら演目名は『コロッケそば』らしい。それにしても、彼の客を噺に引き込ませる話術は巧みだ。マギー隆司はもちろんマギー司郎の弟子。話し方は師匠と変わらないが滑舌に少し難がある。
林家正蔵はいわずと知れた林家三平の長男。こぶ平時代はちゃんとした落語家になれるのかなあと危惧している人も多かったが、正蔵の襲名後は精進したようで立派な落語家になった。ただ、同世代(例えば喬太郎や入船亭扇辰ら)に比べるとまだまだの感がする。仲入り前のトリはこの日の真打の師匠である柳家さん喬。寄席のさん喬も悪くはないが、やはり彼は落語会で大ネタを演じるときの方が魅力的だ。
さて、真打口上は客席向かって左側の下手側から司会の兄弟子・喬太郎、落語協会副会長の正蔵、相談役(ホント? w)の林家木久扇、喬之進改め小傳次、師匠のさん喬、落語界の長老・金馬、落語協会会長の柳亭市馬という豪華な顔ぶれ。それぞれの話は自分のことを絡めながらも、小傳次をご贔屓にという暖かいもの。最後にお客さんと一緒に三本締め。
襲名披露後はまず最初に私も好きな笑組(えぐみ)の漫才。しかし、漫才はほんの少しで襲名披露のお祝いということで南京玉すだれの芸を披露。普段はツッコミ役の太っちょのかずおだが、この芸ではトンボメガネのゆたかにツッコまれるのが可笑しかった。林家木久扇は天然なのか芸なのかよく解らない。困った人だ。でも面白い。柳亭市馬はさすがに落語協会会長のことはある。ちゃんと正統な噺をしてくれる。翁家和楽社中は翁家和楽と和助が太神楽を披露。
柳家小傳次は二つ目の柳家喬之進のときに聞いたことがある。なぜならば、彼が私と同じ目黒区出身とだからである。「目黒のさんま」のせいか目黒区出身の落語家は意外に多い。柳家小ゑん、春風亭正太郎など。で、この喬之進改め小傳次は何がいいかと言えば、その声である。艶があり通りもいい。滑舌も悪くない。顔も師匠が口上のときに「今は太ってしまいましたが、入門のときはこんな二枚目が落語家になっていいのか、と思った」ほどだったそうである。そして、芸風は師匠譲りの真摯な姿勢で好感がもてる。今後も精進してもらいたい。
それにしても、雨が降っているにもかかわらず末広亭は満員で2階席を開けるほどの盛況だった。