昨日(7日)は日本橋劇場で開かれた「小辰の寸法~さよなら感謝祭~」を聞きに行ってきた。出演者と演目は下記の通り。
入船亭小辰 挨拶(お礼とチケットのお願い)
柳亭左ん坊 「のめる」
入船亭小辰 「初天神」
入船亭小辰 「藪入り」
〜 仲入り 〜
柳家喬太郎 「銭湯の節」
入船亭小辰 「不孝者」
左ん坊という前座名は柳家ではそれなり出世街道的前座名だ。初代は「さん坊」として現在の柳家喬太郎が名乗った。それを柳家喬志郎、柳家やなぎと柳家さん喬の弟子たちが受け継ぎ、現在は孫弟子が受け継いでいる。そんな左ん坊も前座3年になるが、この日はなぜか丸坊主で登場。何をしたのだかろうか・・・。
この日の入船亭小辰のテーマは「親子」だった。前半の「初天神」ではやんちゃな子供とそれに便乗する父親を軽やかに演じ、「藪入り」ではネズミ取りでお金を稼いだ健気な少年と早とちりする両親の対比を鮮やかに演じる。もう二ツ目は卒業です、と言わんばかりの出来だった。
仲入り後に登場したゲストの柳家喬太郎は先代入船亭扇橋師匠や小辰の師匠である扇辰師匠(喬太郎とは同期)の思い出話が次から次へと出てきて止まらない。これだけで20分以上は話していたが、中でも前座時代にある演芸場そばでのくつろいでいた時の話と、近くの酒屋で聞いた小辰が扇辰に入門をしたという話は興味深かった。喬太郎が新作を作る原動力はこうしたところにあるんだろうなあ、と思っていたら、その後に新作中の新作「銭湯の節」を披露した。
おばちゃんは銭湯が大好きだが、銭湯に行くと必ず男湯から下手な浪曲が聞こえる。それが好きなの嫌いなのかは別として、おばあちゃんはそれに掛け声をかけたいと言う。そんなおばあちゃんのために孫娘が人肌脱ぐ。この孫娘、大学では落研だったので、浪曲はできはなくないといい、なんと「芝浜」を題材にして浪曲にしてしまう。そして、会社のプレゼンも浪曲で行ってしまう。そして、二人で銭湯に向かう・・・
この新作は柳家喬太郎の浪曲に対する畏敬の念が抱かれている。以前、喬太郎の「歌う井戸の茶碗」を聞いたことがあるが、これも歌謡曲やウルトラマンへの愛に満ちはふれていた。喬太郎は落語という自分の土壌で、他の演芸、芸能に対してリスペクトと同時に応援のメッセージを送っている。こんな落語家はそうはいない。そんな意味でも「銭湯の節」は秀逸の新作だ。
入船亭小辰が扇橋を襲名すると聞いたとき、多くの落語ファンは驚いたに違いない。私は地元学芸大学の「チェロキー寄席」で以前より何度も聞いていたので、真打昇進の際はどんな名前にするのか少しは気になっていた。落語好きの掛かり付けのマッサージの先生ともそんな話をしたことがある。それがまさか大師匠である扇橋を継ぐとは。これは扇橋の惣領弟子である扇遊師匠をはじめ入船亭一門の推挙があったとはいえ、やはり驚きであった。
「不孝者」は芸者遊びにふける若旦那を迎えに行く大旦那がひょうんなことから昔の馴染みの芸者・欣弥とよりを戻すという人情噺。聞きどころというか見せ場はなんと言ってもよりを戻すシーン。大旦那の未練がましい体裁と、芸者の込み上げる感情が交差するところだ。こうした男と女の情感を演じ分けるのは難しいが、小辰は情感豊かにたっぷりと演じる。いや〜、参った。これだけの出来ならば先代扇橋師匠も名を継ぐのを許すに違いない。
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