金曜日, 9月 21, 2007

プレヴィン&N響が奏でるラフマニノフの世界

昨日(20日)、サントリーホールでのNHK交響楽団第1600回定期公演を聴いてきました。指揮はアンドレ・プレヴィン。笙は宮田まゆみ。N響の定期公演も今回で第1600回。凄い数字です。ちなみに、第1回定期公演は1927年(昭和2年)2月20日に予約演奏会として開かれたそうです。

演目
武満徹/セレモニアル——An Autumn Ode(1992)
コープランド/バレエ組曲「アパラチアの春」
  〜休 憩〜
ラフマニノフ/交響曲第2番ホ短調

1曲目。プレヴィンがなぜ武満徹を選んだのかよく解らない。宮田まゆみの笙の音色は澄んでいていて綺麗だが、プレヴィンは難解な武満の音楽を戸惑いながら指揮しているようにしか見えなかった。

2曲目のコープランドはアメリカ音楽に親しみのある私には非常に楽しめた。プレヴィンがこのバレエ音楽をどう料理するのかを、私は密かに期待していたが、彼は得意な映画音楽風に演奏する。目を閉じて聴いていると、私の脳裏には西部の大平原、映画『駅馬車』の撮影で有名になったモニュメント・バレーの風景が浮かぶではありませんか。う〜ん、プレヴィンの術中にはまってしまったような気になりながらも、悠々と流れていく音色に浸っていました。

そして、本日のメインエベントのラフマニノフの交響曲第2番。

まずは結論。この演奏をなんでNHKホールでやらなかったのだろうか! 私はアシュケナージがラフマニノフのピアノ協奏曲の最大の理解者と思っているが、この交響曲第2番に関してはプレヴィンが最大の理解者であろう。ただ、78歳のプレヴィンは渾身の力をふりしぼって自分の十八番を指揮したが、おそらくもう二度とこの曲を日本で振ることはないだろう。

なのに、観客の多くはもう60歳を軽く過ぎようとしている高齢者ばかりで、若い人はほとんどいなかった。NHKホールでやっていれば、10代、 20代に聴くチャンスはあっただろう。ラフマニノフのメロディの優雅さと甘美さ、そしてそれを的確に指揮するプレヴィンの指揮ぶりを若い世代に聴かせたかった。プレヴィンがどれだけラフマニノフを愛して、そして次世代に伝えたかったかを感じた演奏だった。

第1楽章。ゆったりとした悲しみを帯びたメロディ。それに加えてイングリッシュホルン(和久井仁)の悲しい音色。ただ、時間の流れと共にメロディが徐々に悲しみが薄らぎ、喜びに代わっていく。長い長い序奏であるが、プレヴィインはオケに指揮棒をもつ右手、そして柔らかい手首の動きをする左手で指示を次々とオケにしていく。それに応えるべくN響のメンバーも繊細にそして懇切丁寧に音を奏でていく。う〜ん、痺れます。

第2楽章。冒頭にホルンが軽やかなスケルツォのメロディをサントリーホールにこだまさせる。第1楽章とは打って変わってきらびやかなラフマニノフの世界の始まりである。楽章の途中では何度か静寂になったりするが、そのたびにホルンの高らかな音色が響きわたり、まるで立ち上がれかというように鼓舞する。そして、その後にはヴァイオリンの美しいメロディが広がっていく。う〜ん、たまりません。

第3楽章。この曲最大のハイライトはいきなりやってくる。「のだめ」で何度も使われた、あのスラヴ調の優雅にして甘美なメロディがビオラ、チェロ、そしてヴァイオリンから流れてくる。そして、横川晴児が吹くクラリネットがロマンチックな世界へ誘う。胸が高鳴り、足が震えてくる。そして、涙腺も弛んでくる。いつの間にか身を乗り出して聴いている。クラシック音楽を好きになって良かったなと思う瞬間である。恍惚の世界に浸っているかのような気さえする。このメロディ、この音色、この世界、いろんな人に聴いてほしい、感じとってほしい。いつまでもこの時間が流れていてほしい。う〜ん、凄い、凄い、凄いです。

第4楽章。冒頭から勇ましいメロディが奏でられる。プレヴィンの手は水を得た魚のように右に左に動き、オケを明るいラフマニノフの世界へ導いていく。それに呼応するかのように、N響のメンバーたちもワクワク感を自分たちで感じながら楽しそうに演奏している。プレヴィンとN響は完全に一体化して音を奏でている。ラフマニノフを楽しんでている。ラフマニノフを自分たちのものしている。う〜ん、羨ましいです。

終演後、第2ヴァイオリンの女性が代表して、プレヴィンに赤い花束を送った。それを受け取るときの顔は厳しいマエストロの顔ではなく穏やかおじいさんの顔だった。

この日の演奏会の模様は10月12日(金)午前10時からのBS2「N響演奏会」で放送予定になっている。ぜひとも録画して、ラフマニノフだけでも聴いてもらいたい。

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