夏は洋食よりも和食。それも日本料理が一番だ。涼しさが感じられる。夏野菜、夏魚などを味わえる。こうした料理を愉しめるのは日本人の特権であり、日本に生まれて良かったなあと思える時間でもある。
「虎白(こはく)」は神楽坂で今もっとも人気があり、予約がなかなか取れないお店として有名な「石かわ」の姉妹店。お店は飯田橋駅(西口)から神楽坂を少し上がった路地にある。店内はモダンな作りで日本料理店としては割とゆとりのある空間で、隣席を気にするようなことはない。店長の小泉功二さんは「いしかわ」の創立メンバーのひとりで、顔立ちは実直そうな昔気質の職人風だが、料理の腕は昔気質というより芸術肌だ!
この日の献立(お品書き)は下記の通り。
・先付け 焼玉蜀黍 鮎
・揚物 甘鯛笹燻し 新銀杏
・しのぎ 穴子飯蒸し (*写真右上)
・お椀 雲丹 白胡麻豆腐
・お造り 福子(スズキの幼魚)
・焼き物 太刀魚 椎茸、トリュフ餡
・冷し物 毛蟹 白芋茎(ずいき)
・煮物 牛 焼茄子 おくら 葱 (*写真左下)
・お食事 鱧 伏見唐辛子 炊込ご飯 (*写真右下)
・デザート 桃 桃シャーベット ラム酒ゼリー
料理はいずれも手のこんだものであったが、なかでも私が感服したのは焼き物、煮物、お食事の3品。焼き物の太刀魚は神業ではないかと思われるぐらい絶妙な焼き方。身は純白にふっくらと、そして皮はこんがりと焦げ目を出している。そして、椎茸とトリュフの餡(あんかけ)のマッチングも舌が涙ぐむぐらい美味しい。これまで食べた太刀魚料理のなかでは最高の一品といって過言でない。
煮物は牛しゃぶと夏野菜の組み合わせで、牛しゃぶはおそらく国産の最高級のものを60℃とか80℃ぐらいの低温調理したもので、茄子、おくら、葱とコンビネーションはアンビリーバブルな食感。これはいわゆる含め煮というものなのだろうが、その素材の色や味の活かし方は見事の一言である。
お食事は鱧のご飯。土鍋で作られた鱧ごはん(この写真を撮るべきだった)を仲居さんが、うまく混ぜ合わせてくれる。鱧は塩焼きではなく薄くタレをつけて焼いたもので、これがご飯と混ぜ合わさると炊き込みご飯の領域を遥かに超えた贅沢な世界が口のなかに広がった。京料理の鱧も美味しいが江戸前の鱧も捨てたものではない。
全体を通しての料理の感想は、日本料理の真髄と新たな日本料理は何かを追求しているアグレッシブな試みをしながらも、ひと皿ひと皿にアーティスティックな魂が入っていてまったく手抜きがない。日本料理にフランス音楽の比喩は少し変かもしれないが、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』を思わせてくれうような、穏やかながらも斬新さに挑んでいる料理という感じがした。
あと、このお店の特徴は日本料理店としてはお酒の種類が豊富なことだろう。それも日本酒だけでなく焼酎、ワイン、シャンパンなどかなり高級な銘柄がいくつも書かれていた。また、使われている器の品々も名のある作家さんのもので、器をみるだけでも楽しい。そんななかで、私が一番目に留まったのが江戸切子のおちょこ。冷酒をいただくときはガラスのおちょこを使うのを信条としている私にとっては江戸切子で飲む酒(今回は「日高見」「飛露喜」)は格別の味である。加えてチェーサーとして使われていたグラスのコップも趣があり、飲兵衛には嬉しい限りであった。
今回は金曜日に訪れたこともあり、予約客が多く時間的制約があり、かなりスピードアップして料理を食べなければならなかったのが残念であったが、次に訪れるときは日本酒好きの仲居さんに薦められた新潟のお酒「鄙願」を飲みながら、時間を気にすることなくゆっくりと研ぎ澄まされた料理を楽しみたい。
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