年末、掛かりつけの床屋(理髪店)に行った時のことである。理髪店の前の私道に大きな国産車が置いてあった。息子さんが帰省でもしたのかなと思いながら店に入ると、店のなかにはどう見ても80歳を越えているだろう年配者が、店主に抱えられながら鏡前の椅子から立ち上がろうとしていた。
やっとの思いで立ち上がったおじさんは、杖をつきながら店を出ていき、なんと車に乗り込んだ。そのあとは店主に誘導されながら、車を公道に出すのだが、バックの切りかえしがうまく出来ず、公道はあっという間に渋滞になってしまった。何度か切り返しをしてなんとか公道に出て走るのに、3〜4分はかかっただろうか。
池袋で「上級国民」飯塚幸三(85歳)が親子を死亡させた事故以降、高齢者による交通事故が問題になっていて、高齢者の免許返納も進んでいる。そんななかで目の当たりとんでもないジジイである。
そして、私が理髪台の椅子に座ったのはおそらく店に着いてから10分以上過ぎていただろう。その後、店主は私の質問にいろいろと答えてくれた。
「あの爺さんは以前近くに住んでいたんだけど、2〜3年前に横浜に引越した」
「年は85歳で、息子さんは医者をしている」
「奥さんや息子さんは免許返納をもちろんすすめているが聞く耳をもたない」
「近くの理髪店に行くよう言っているのに『慣れた店がいい』といって来る」
「電車で来ればと言っても『足が悪いから車がいい』という」
『60年以上運転しているから自信がある』
『俺がミスしても他の車がよけてくれるから安心だ』
「車にキズがついても30万円ぐらいで直せる。それぐらいの金はある、という」
驚くような話の連続で、私は口があんぐりするというより、最後はあいた口が塞がらない状態だった。こんなジジイが世の中にいるんだ、ということを知ると同時に、こんなジジイは他にもいっぱいいるんだろうなとも思った。
言うまでもないが危険極まりないジジイでもある。こうした“頑固ジジイ”というより、世の中に甘えている“ロクでもないジジイ”が事故を起こすのである。池袋の事故ではないがこんなジジイの事故の巻き添えをくらった人は悲劇である。そして、ジイイの家族も一生負い目を抱かざるをえない。そのことをこのジジイは全く理解していない。とどのつまり、池袋の事故で飯塚幸三を逮捕しなかったことは、全国のロクでもない高齢者ドライバーを妙に勇気づけたようである。
いずれにしろ、こうしたジジイは頭の構造がすべて自己中心になっていて、いくら言ったところでダメだろう。それゆえに、今後は75歳もしくは80歳以上の高齢者ドライバーには筆記および実技試験を行なって、それによって免許更新できるかを判断するべきである。さもないと、今後もこうしたジジイがはびこり、事故はなくならない。
最後に私は店主に「次はもう絶対に来ないよう断った方がいいですよ。そうでないと、またイヤな思いをしますよ」と注告はしておいた。