歴史小説の傑作中の傑作。これほどの歴史小説はそうそうあるものではないと思う。
小説は1823年(文政6年)のシーボルト来日から、明治36年(1903年)のシーボルトの娘であるお稲の逝去までの80年間を、劇的に変わる歴史と共にそのなかで慎ましくもあり逞しくもある女三代(お滝、お稲、タカ)の生き様を懇切丁寧に描いている。
舞台が長崎、宇和島、岡山、江戸、大阪といろいろ変わり、加えて幕末史にかかせない人物が次から次へと登場する。このことが、いかにこの女性たちの生涯が波瀾万丈であったかを物語っているだろう。それは下手な大河ドラマを観ているよりも、圧倒的ダイナミズムな読書感を味わうことができる。
3人の女性の生涯は美人ゆえの苦難と苦渋にも満ちていて、途中何度となく涙なくしては読めないところがあるが、1866年(慶応2年)に宇和島藩主・伊達宗城のはからいでタカと三瀬周三(後の諸淵)の祝言を上げる箇所は、3人の女性にとって生涯最良の日であっただろうと嬉し涙なくしては読むことができなかった。
吉村昭の小説は徹底した資料追求と下調べに裏付けたされたものであるが、歴史好きならばこの小説を読むと、3人が歩んだ町を訪れたくなってしまうだろう。
余談になるが、下記のサイトに永島正一著「続長崎ものしり手帳」に書かれていたという、生前のタカが語った祖母(お滝)、母(お稲)、そして自分のことが転載されている。
シーボルト君記念碑と、たき・いね・たか
http://www2.ocn.ne.jp/~oine/kinenhi/index.html
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