月曜日, 10月 24, 2016

美食日記「樋口」(北参道)

「樋口」は都内の一流調理人たちが絶賛するという日本料理のお店。知る人ぞ知るという店なのである。ただ場所が原宿から奥まったところにあるためかちょっと訪れにくい。私も以前より訪れたいと思っていたのだが、なかなか行く機会がなかった。

お店は2000年にオープンというからすでに16年なる。ただ今年の7月から3ヶ月かけて店内を完全リニューアル。その再オープンから間もないときに訪問できてラッキーである。以前は6席だったというカウンター席が8席になりカウンターの一枚板も初々しい。また調理場もキレイキレイ状態。こちらもちょっと身が引き締まる思いで、大将(樋口一人さん)の前の席に座る。

この日のおまかせ料理の献立は下記の通り。

・渡蟹と焼き茄子の胡麻和え
・梅とわさびのお吸い物
・カラスミともち米
・石川小芋と鮎、銀杏
・炙ったクエ
・ブリと鯛のお刺身
・松茸と鱧の小鍋仕立て
・玉ねぎと牛のテール
・雲丹と百合根のジュレかけ
・天然うなぎの炭火焼き
・お新香、湯葉の味噌汁、いくらご飯
・自家製の手打ち蕎麦
・デザート
(自家製葛切り)(無花果アイス)
・お土産 特製ちりめん山椒
(※料理写真は撮影不可)

突き出しは「渡蟹と焼き茄子の胡麻和え」。いきなり蟹とは驚かされるが、さっぱり感の蟹と少しトロ味のある焼きなすの胡麻和えが風味良くマッチングしていて、お酒を勧めさせられるような誘惑にかられる。続いてのお椀物の「梅とわさびのお吸い物」は梅の香りが心地よい。出汁は京風の薄味。

「カラスミともち米」。自家製のカラスミはまだ時期が早いために見た目はまだピンク色。それでもねっとりとした食感は美味。もち米のねっとり感との対比も面白い。ここで大将とカラスミ談義が始まり、大将の穏やかな人柄が徐々に引き込まれていく。

「石川小芋と鮎、銀杏」。琵琶湖産の鮎はほうじ茶で煮たものでとても柔らかくとても美味。里芋のような石川小芋、銀杏のそれぞれの歯ごたえの違いを楽しめる小粋な一品。

その後は「炙ったクエ」「ブリと鯛のお刺身」というオーソドックスな魚料理が2品。そのせいか、日本酒(おちょこがオールドバカラ)もすすんでしまう。というより、日本酒のせいでお料理のことをよく覚えていない。m(_ _)m

「松茸と鱧の小鍋仕立て」。松茸は岩手県産で香りも歯ごたえもしっかりして、さすがに国産は美味しいという感じ。岩泉町あたりで採れたものだろうか。ここで大将と松茸談義に。「海外ものではブータン産が歯ごたえがしっかりしていて一番ですよ」と私と相方が勧めると、樋口さんは「ブータン産、知りませんでした。ありがとうございます」と丁重に返されてしまった。(^_^;;

「玉ねぎと牛のテール肉」。しっかり煮込んでるのでとても柔らかい。あまり好きな言葉ではないがジューシーだ(英語ではジューシーというのは肉料理のときに使うのが一般的)。「雲丹と百合根のジュレかけ」はお口直しというか、繋ぎ的な感じの料理。

そして、メイン料理として登場したのが「天然うなぎの炭火焼き」。これは素晴らしいの一言。丸々と太った大きな天然うなぎを蒲焼のように開いて焼くのではなく、内蔵部分だけを取り出し、それを串打ちして弱火の炭火でじっくり焼く。皮目の香ばしさに引き締まった身の旨味は耽美的かつ官能的な美味さだ。最後の晩餐に出してほしいような絶品料理である。

締めは「お新香、湯葉の味噌汁、いくらご飯」と思ったら、その後に「自家製の手打ち蕎麦」が登場。10割蕎麦に近いコシが強い細麺で超私好み。つゆは薄くもなく辛くもないこれまた私好み。ちょっと自重して2皿しかいただかなかったが、あと1〜2皿は軽くいただけるほど美味しかった。

デザートは幾つかあるなかから選べるもので、我々はシェアする形で「自家製葛切り」と「無花果モナカアイス」。これはどちらも美味い。特に葛切りはツルンとした触感でこれまで食べた葛切りのなかでは最高の美味しさ。

お土産にいただいた「特製ちりめん山椒」(写真)はふわふわ感満載。細かいちりめんで美味しさ満点この上なし。こんな美味しいお土産をいただいたお店はおそらく初めて。いや間違いなく初めてである。

「樋口」はどの料理も真心込めて造られている。ある意味日本料理の王道を歩んでいるのだと思う。それゆえに冒頭にも書いたように一流調理人たちからも慕われているのだろう。リニューアルになったばかりということで、大将は調理場に少し戸惑いながらも、しかし嬉しさを隠せずに我々を応対してくれた。その穏やかにして丁寧な人柄が料理にも表れていることも言うまでもない。今後もこれまで培った料理の技を披露していくと共に、新しくなった調理場で新たなる料理を造っていくに違いない。そういう期待感をもたせてくれるお店である。最後に余談ではあるが左利きの板さんがとてもイキイキ動いているのが印象的だった。その理由は是非とも訪れて解明してもらいたい。w

樋口割烹・小料理 / 明治神宮前駅原宿駅北参道駅
 
夜総合点★★★★ 4.8

金曜日, 10月 14, 2016

桂伸三@チェロキー寄席

一昨日(12日)は地元・学芸大学の「Cherokee LIVE TAVERN」で開かれた第13回「チェロキー寄席」を聞く。出演は桂伸三(しんざ)。客席はかなりの少人数。ちと寂しい。

桂伸三は2006年4月に4代目春雨や雷蔵に入門して、春雨や雷太と名乗るものの、2016年3月に桂伸治門下に移籍し桂伸三となる。つまり、伸三になってまだ日は浅い。ただ、キャリアは10年になる。

1席目は桂伸三の新作落語「連歌の家」。伸三は東京生まれだが、両親が熊本県八代市出身ということで、自分の故郷は熊本だという。その理由はタネを仕込まれたのが熊本だからというが、母親はハワイだったという。こうしたマクラから八代ネタの話を展開。八代は江戸初期の連歌師・西山宗因の故郷で連歌が盛んとのこと。それゆえに両親の手紙のやり取りも連歌だったという。今のようなスマホでLINEをする時代じゃなかったはずだから、時間のかかる連歌である。だが、この新作落語、かなり面白い。

2席目は「盃の殿様」。吉原の花魁・花扇に恋をしてしまった遠国のお殿様を描いた滑稽噺で、そのなかに先日観た映画『超高速!参勤交代リターンズ』を彷彿させるシーンがあるのだが、その時の伸三の話し方が佐々木蔵之介にそっくりで、映画とシンクロさせながら聞いていた。なかなかの熱演に少人数のお客さんも爆笑。

伸三は新作と古典を共に滑稽かつ滋味に演じる。是非とも味のある噺家さんになってもらいたい。さて、入船亭扇辰師匠の肝入りで始まった毎月1回のチェロキー寄席。今年で2年目になるが今後の予定は下記の通り。開演時間は20時。

11月9日(水) 柳亭市弥
12月14日(水) 入船亭扇辰
1月11日(水) 春風朝之助
2月8日(水) 春風亭正太郎
3月8日(水) 入船亭小辰

東横線沿線の落語ファンの皆さん、チェロキー寄席は駅から1〜2分のところで、行われているので、お気軽にご来場ください。ただ、扇辰師匠の時だけは予約を。(以上、席亭に代わって宣伝)

木曜日, 10月 06, 2016

新宿末広亭10月上席・夜の部「橘家文蔵襲名興行」

一昨日(4日)新宿末広亭で開かれた10月上席・夜の部「橘家文蔵襲名興行」を聞いてきた。出演者と演目は下記の通り。

 〜 仲入り 〜
・襲名口上
(柳家喬太郎、五明楼玉の輔、桂藤兵衛、文蔵、春風亭一朝、柳家小さん)
三増紋之助   曲ごま
柳家喬太郎  『ウルトラマンジャックの由来』
桂藤兵衛   『狸賽』
ダーク広和   手品
 〜 写メ・タイム 〜
橘家文蔵   『子別れ』

落語界随一のコワモテとして有名な橘家文左衛門が三代目橘家文蔵を襲名。その襲名披露興行が上野鈴本演芸場に始まり、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、国立演芸場の5か所で50日間にわたって行われている。

襲名口上は喬太郎が司会のもと玉の輔、藤兵衛、一朝、小さんが挨拶というか文蔵にまつわる暖かいコケおろし話を披露。そして、小さん師匠の音頭のもと三本締め。客席は8割程度の入りだったが、盛大な拍手が会場に鳴り響いた。

トリの文蔵が一席話す前になぜか写メ・タイム。最初は師匠1人だけだったが、途中から楽屋にいた出演者たちが登場。缶ビール片手の喬太郎は「I ♥ Ikebukuro」のTシャツ。(笑)最後は裏方さんも登場して2〜3分の撮影タイム。誰かが「おいおい、こんなにみんな写真撮るの」と驚いていたが、周囲を見渡すと誰もスマホかデジカメで撮影していた。確かにあんなに一堂に会して写メが行われる光景は私も初めて見たかもしれない。

『子別れ』は大工の熊五郎が別れた女房のおみつと息子の亀と再会するという人情噺。文蔵はこの有名な演目を、時にドスの効いたコワモテを取り入れながら、しっとりと聞かせる。女房おみつを演じる時の仕草は色っぽい。また酒を止めて精進直した熊五郎の鯔背な感じもいい味を出している。そして、亀を演じるときは何か楽しそうでほのぼのとする。

文左衛門という名が消えるのちょっと惜しい気がするが、文蔵という名は落語界の名跡の一つであるから、今後は師匠には新しい文蔵という名をを作り上げ、広めていってもらいたい。