金曜日, 5月 13, 2022

皐月恒例 さん喬十八番集成(さん喬選三夜の二夜)

昨日(12日)は日本橋劇場で開かれた「さん喬十八番集成・さん喬選三夜」の二夜目に行ってきた。出演者と演目は下記の通り。

入船亭扇ぽう 「子ほめ」
柳家さん喬  「野ざらし」
柳家さん喬  「鴻池の犬」
 〜 仲入り 〜
柳家さん喬  「柳田格之進」

前座の入船亭扇ぽうは入船亭扇遊の弟子。この5月下席(21日)から名前を入船亭扇太と改めて二ツ目に昇進する。私は扇ぽうが前座に成り立ての頃から聞いているが、扇遊の弟子ということもあり、その実直さと素直さにずっと感心させられている。加えて、最近は芸の幅が広がったというか懐が深くなった。まだ童顔にして落語家としての風格はないが、将来は間違いなく一門だけでなく落語界に名を轟かせる存在になると期待している。

柳家さん喬の1席目のマクラは趣味の話、釣りの話。そして「野ざらし」へ。長屋に住む八五郎が隣に住む医者(隠居の場合もある)に昨夜は女性の声がしたと言って入ってきて、その後は向島に釣りに行くという少し取り留めもない噺。これまでに他の落語家で何度か聞いているが、私はあまり好きになれない。さん喬はフルバージョンを披露するが、やっぱり私にはこの噺は不向きであった。

2席目のマクラは多くの落語や江戸言葉は上方から来ていると話をすすめる。これはひょっとすると演目は「鴻池の犬」でないかと思ったらビンゴであった。「鴻池の犬」は上方落語の名作。それをさん喬が江戸風にアレンジして、私も2年前に浅草見番で聞いた時の感動は忘れられず、いつかもう一度聞きたいと願っていた。

本所にある乾物屋・角屋の小僧・定吉が3匹の捨て犬(クロ、ブチ、シロ)を育てる。しかし、そのうちの1匹クロが大阪の豪商・鴻池善右衛門にもらわれることになった。クロを一番可愛がっていた定吉は、クロがいなくなるとブチとシロを邪険するようになり、ブチは大八車に轢かれて亡くなってしまう。翌日悲観したシロは大阪にいるクロ兄を慕って江戸を出る。大阪への道中は”おかげ犬”(人に代わってお伊勢参りする犬)のハチと同行する。この時の道中はお囃子(太田その)が「箱根八里」などを入れてその様はとても楽しい。そして、伊勢へ行くハチと大阪に行くシロが別れる場面ではさん喬はその刹那さを“犬芸”で鮮やかに表現、思わず目頭が熱くなる。その後、シロは大阪でクロと再会するが、その大阪での他の犬たちとのやりとも絶品だ。

この噺をいま東京で演じているのはさん喬師匠だけだと思うが、いずれ柳家喬太郎をはじめとした弟子たちにも受け継いでもらいたい。

3席目はマクラなしで「柳田格之進」へ。囲碁仲間である柳田格之進と両替商・萬屋源兵衛が、源兵衛とその番頭の失態から発生する50両にまつわる約45分にもおよぶ大ネタ。さん喬はいつものように江戸の光景をはっきり見えるように語っていく。特に源兵衛宅の離れで碁を打つ場面、湯島で番頭が柳田格之進と再会する場面などは、昨日も書いたが後ろにある屏風に背景が映っているのではないかと思うぐらい、ものすごい情景描写である。この「柳田格之進」は多くの落語家が演じているし、私も聞いてきているが、着物を含めてその所作、語り口などすべてで彼に勝る人はいない。さん喬の「柳田格之進」を聞かずして、この落語は語るべからすである。

明日土曜は最後の三夜目となるが、さん喬師匠は何を披露してくれるのだろうか。楽しみである。



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