日曜日, 7月 22, 2007

N響「夏」2007公演

一昨日(20日)は梅雨明け予定日なのに、東京は相変わらずの梅雨空でしたが、そんななかNHKホールでのN響「夏」2007公演に行ってきました。指揮はチェコ出身の新進気鋭のトマーシュ・ネトピル。ピアノは昨年の「第6回浜松国際ピアノコンクール」で優勝したアレクセイ・ゴルラッチ。

演目(※はアンコール曲)
モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調作品88
※ブラームス/ハンガリー舞曲第4番

アレクセイ・ゴルラッチはウクライナ出身の弱冠19歳。顔にはまだあどけなさが残り、背もさほど高くないので15歳〜16歳の少年にも見える。

第一楽章。始まってすぐのオケだけの演奏のところで、ゴルラッチは体を前後にゆっくり動かしながら、頭のなかで情景を描いているのか、それとも自分の感情を高めているのか、自分のリズムを作りだそうとしている。そして、ピアノ演奏に入ると彼は時には繊細に、時には荒々しく、音楽そのものを自分の世界に引き込んでいく。このピアノ協奏曲「皇帝」の第一楽章はきらびやかにとよく言われるが、彼は自分のもっている若さという特権でベートーヴェンに挑もうとしている。しかし、彼は決して背伸びをしているわけではない。ただ、没頭したいだけなのだ。彼には指揮者を見る余裕もないし、自分をいかに表現するかだけで精一杯なのだ。でも、若々しくていいではないか。

第二楽章。ここではゴルラッチの若さが露呈される。ベートーヴェンにしては甘美に書いた旋律を、彼は残念ながらまだうまく奏でることはできない。でも、彼は第一楽章同様一貫して真摯な姿勢でピアノと向き合う。

第三楽章。ゴルラッチは一転して自分の殻を破りたいが如く、激しく激しくピアノを奏でる。それはベートーヴェンが描くエネルギッシュな世界を破りたいという意志の表れであろう。彼はおそらくまだ自分のピアノに満足していないに違いない。もっともっとピアノが上手くなりたいという少しアマチュア(少年とでもいおうか)な面でベートーヴェンに向き合っている。それでもいいではないか。終演後の観客の拍手も明らかに「少年よ、その若さを忘れるなよ」という暖かいものであった。

それにしても、最近のNHKホールのピアノはよく鳴る。よく響く。そして、よく奏でる。ソリストがいいのか、指揮者がいいのか、オケがいいのか、ピアノがいいのか、調律師がいいのか。(ホールがいいことはない)。あの赤鬼ルドルフ・ブフビンダーのブラームス、名演奏だった清水和音のラフマニノフ、そして今回のゴルラッチ君の「皇帝」とNHKホールでのピアノ協奏曲に外れがない。こうなると、来年4月以降のAプロのピアノ協奏曲3連チャンがめちゃくちゃ期待される。

休憩を挟んでのドヴォルザークの交響曲第8番も非常に楽しめた。トマーシュ・ネトピルは1975年生まれとまだ若い指揮者ですが、その指揮ぶりはとにかくダイナミックでエレガント。指揮者を野球の投手に例えるのは少し愚かかもしれないが、彼は背は高いがアンダースローの本格派投手という感じがした。往年の阪急ブレーブスの山田久志のように200勝投手になれるような資質の持ち主だ。現在、彼はヨーロッパの数多くの歌劇場でタクトをふっているようだが、彼のように直球も変化球も自在に投げられる指揮者はオケピのなかではなく、舞台の上でも大いに振る舞ってもらいたい。敢えて苦言を言わせてもらえれば、アンコール曲のハンガリー舞曲の指揮ぶりはちょっとノリノリ過ぎでした。

でも、これもドボ8を指揮を終えて嬉しさからきた若さなんだろう。とにかく若さが全面に表れたN響にしては珍しいみずみずしい演奏会だった。おかげで、帰りの飲み屋の酒も清々しかった。

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