月曜日, 7月 28, 2008

『アメリカ彦蔵』(吉村昭)を読む

少しでも海外生活を経験した者にとっては、涙なくしては読めない本である。550ページにもおよぶ長編だが、3日かけて夢中になって読んだ。

幕末期、ジョン万次郎をはじめ数多くの漂流民がアメリカにたどり着いたが、彦蔵ほど流転の人生、まさに漂流した人生を送った者はいなかったのではないだろうか。

播磨国に生まれた彦蔵(幼名彦太郎)は1850年に13歳で「永力丸」の船乗りになるが、初めての航海で大しけに遭う。彦蔵をはじめ乗組員17人は2ケ月に渡る漂流生活の末、アメリカのオークランド号に助けられ、サンフランシスコに上陸する。

その後、乗組員全員は1ケ月ほどサンフランシスコに滞在するものの、ペリーの対日開国工作の外交カードとして香港へ行かされる。しかし、彦蔵はモリソン号事件で日本に帰れなかった力松の話を聞いて、無事に帰国することはできないと思い、アメリカへ戻ることにする。

その後、彦蔵は3人のアメリカ大統領に謁見するなど、波乱万丈の人生を送る。

この本の素晴らしいことは、単に彦蔵の歴史だけを書くだけことなく、数十人にもおよぶ漂流民のことがかかれていて、サブタイトルに『〜幕末の漂流民たち〜』とつけてもいいぐらいである。作者の吉村昭は「あとがき」でも書いているが、「今までこれほど手こずったことはない」というぐらい漂流者たち全員のその後を追い求め、そのノンフィックション性への追求には感服する次第である。

彦蔵は明治30年12月11日に隅田川近くにあった自宅で息をひきとる。享年61歳。新聞は「アメリカ彦蔵死す 日本で新聞の創設者」という見出しで報じたという。そして、翌年12月に青山の外国人墓地に墓碑が建てられた。碑文は英語で書かれ、その下に漢字で「浄世夫(ジョセフ)彦之墓」と刻まれている。

彦蔵はアメリカ人として、祖国の地で眠っている。

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