水曜日, 7月 15, 2009

御用聞き

昭和30年代までは御用聞きはごく一般的な商取引だった。

私の家でも勝手口から肉屋さん、魚屋さん、八百屋さん、酒屋さんなどがそれこそ勝手に顔を出して、「奥さん、今日はなにかご注文ありますか」と言っていたものである。現代のように近所にスーパーがあるわけでなく、商店街より少し離れた住宅街には、こうした御用聞きに回る若い丁稚さんたちがいた。子供だった私も肉屋のお兄さんや八百屋のおじさんが運転する三輪トラック(ミゼット)に乗せてもらい、とても嬉しかった思い出がある。「三丁目の夕日」の世界である。

御用聞きは押し売りでなかった。御用聞きはちゃんとその家のニーズをわきまえて、それに見合った注文をとり、その信頼関係でなりたった商いだった。そして、注文をする側も時たまそれぞれの商店に顔を出して、「今度は何々をもってきてね」と言ったりしていたものである。

しかしながら、こうした御用聞きも東京オリンピックを境にめっきり少なくなってしまった。時代は高度成長をとげ、住み込みで働く若者もいなくなり、スーパーが徐々にでき、御用聞きが不要になっていってしまった。そのために、いつしか勝手口というドアや門は、開かずの扉となっていってしまった。

御用聞きは江戸の香りを残す日常風景だった。

0 件のコメント: