火曜日, 10月 30, 2007

マリナーのN響ロマンティック・コンサート

昨日(29日)、サントリーホールでのNHK交響楽団による「N響ロマンティック・コンサート」を聴いてきました。指揮はサー・ネヴィル・マリナー。ヴァイオリンはN響のソロ・コンサートマスターである堀正文。

演目(※はアンコール曲)
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」
※ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」冬の第2楽章
  〜休 憩〜
モーツァルト/交響曲第41番「ジュピター」
※モーツァルト/ディヴェルメント二長調K136第3楽章

今回もまずは余談から。最近サントリーホールへ行くたびに入場前にN響メンバーとよく遭遇する。もちろん、コンサート会場へ行くのだから遭遇するのは当たり前なのかもしれないだが、3回たて続けとはびっくりである。最初がバレンボイムのときに第一ヴァイオリンの宇根京子さん、次が先週の「Soup Stock」でのチェロの銅銀久弥さん、そして今回は地下鉄のなかから会場までほぼ一緒に歩いていた第一ヴァイオリン次席の大宮臨太郎くんである。大宮くんは今どきの若者らしく、まだ暖かいのに黒に緑のストライプの入ったマフラーをして、颯爽としていました。体型もスラッとしているので、ちょっとモデル風にも見える。それにしても、3回も続くと次は誰に出会えるのかなと楽しみになってくる。次にサントリーホールに行くのは11月7日のパリ管弦楽団である。う〜ん、池田昭子さん、来ませんかねぇ。(笑)

さて、本題である。コンサートの感想は非の打ち所がないぐらい素晴らしいものでした。しかしである。あえて苦言を呈させていただきたい。あ、また寄り道にそれそうだ・・・。

コンサートは素晴らしい。しかしである。料金が高過ぎる。最近のクラシック音楽コンサートの料金は異様に高くなっている。例えばチョン・ミョンフンが振るときの東京フィルのS席は11,000円、11月1日の西本智実が振る日本フィルもS席が10,000円である。そして、昨日のロマンティック・コンサートも演奏者は普段の半分の人数にもかかわらずS席は9000円だった。そのためか、2階のS席の半分は空席というN響コンサートとしては珍しい状態であった。この料金設定は明らかに主催者であるサントリーホールのミスであり、コンサートの内容がいくら素晴らしくても、興行的には失敗である。

「のだめ」のおかげで若者たちがクラシック音楽に足を運ぶようになったのに、それを拒むかのように高い料金を設定するクラシック業界は少しおかしいとしかいいようがない。昨日などは「ロマンティック・コンサート」と銘打つぐらいなのだから、30歳以下の人にはS席をペアで10,000円で販売するぐらいの器量はないのだろうか。N響のサントリーホールでの定期公演のチケットが手に入りくいことはわかっているのだから、今回のように若者向けのプログラムならば、音楽を好きになろうとしている若者たちにもっと求めやすい値段設定をすべきでないだろうか。業界のみなさんは一考していただきたい。


ああ、前置きが長くなりました。すみません。m(_ _)m


1曲目の『ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」』。実は私はこの曲を生で聴くのが初めてである。といのも、幼い頃、父親が年がら年中イ・ムジチ合奏団の『四季』をレコードで聴いていて、私のなかではトラウマのようになった音楽だったので、あえて聴くことはなかった。そのために、この曲のCDすら持っていない。

『四季』はご存じのように、春・夏・秋・冬の4つのパートに分かれていて、それぞれが3楽章でなりたっている。第1部の春は主に田園風景を、第2部の夏は暑さと嵐を、第3部の秋は実りと祭りを、第4部の冬は寒さと風を、それぞれ主題に表現している。

楽器編成は第1ヴァイオリン8人、第2ヴァイオリン6人、ヴィオラ4人、チェロ4人、コントラバス2人、そして、チェンバロ、オルガン、ソロの堀正文だった。オルガンが入っているという編成はどうも珍しいようである。

堀正文の奏でるヴァイオリンの音色は派手ではない。しかし、味がある。洗練された味がある。堀は一流のシェフが四季おりおりの季節感ある料理を作るかのように、ヴァイオリンを奏でるのだ。そして、チェンバロ(すごく上手い人だった)やチェロの藤森亮一が隠し味を加えていく。それを支配人のネヴィル・マリナーがお客であるテーブルの前に出してくれる。一度に4つの季節料理を味わえるとはなんと幸せなことであろう。音楽のなかにも風味のきいたコンソメ・スープやとろけるようなビーフ・シチューがあると実感した演奏だった。

2曲目はモーツァルトの『ジュピター』。『四季』同様にお馴染みの曲である。ここではネヴィル・マリナーが完全にシェフである。そして、それを支えるサブが篠崎史紀、永峰高志、店村眞積、藤森亮一といった4人の首席奏者たちだ。

マリナーは83歳にもかかわらず矍鑠(かくしゃく)としていて、鍋(タクト)を返す(振る)手つきも小気味いい。その姿はマスコミに多く出てくるような鉄人ではないが、隠れた名店の匠の味を出してくれる一流のシェフである。

マリナーの一番の素晴らしさはバランス感覚の良さではないだろうか。それは人によってはメリハリが効いていなくて面白くないというかもしれないが、彼はサントリーホールのなかでも自宅でCDを聴いているかのような安心感のある音を作り出すのだ。それは長年数多くの録音に携わってきたからかもしれないが、これは熟練した職人しかできない味なのである。そういう意味では彼は巨匠ではないにしろ、「匠」な人なのだ。まだまだ元気な様子なので近いうちの来日を期待したい。

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