日曜日, 11月 22, 2015

美食日記「うえ村」(荒木町)

「荒木町に美味しい店があるから行きませんか」とお誘いの声が相方からかかった。それを大正生まれの母親に告げると「荒木町?」と。「四谷3丁目の近くだよ」と返事をすると「四谷塩町(「四谷3丁目」の昔の都電の駅名)の近くかね」と。この時点で時代は平成から昭和に、それも昭和初期にトリップである。w

荒木町は江戸時代に景勝地と栄え、明治以降は花街として賑わった。それゆえに、街並は今でも昔の風情を色濃く残していて、どことなく神楽坂に似ている。私は正直、このあたりをよく知らない。しかし、荒木町は隠れた和食の名店が多いということは聞いていた。あとで知ったことなのだが、この辺りにこうした名店が出来始めのはこの5〜6年のことで、どうも神楽坂にお店を出したい人たちが、神楽坂の家賃があまりにも高いので、代わって神楽坂の雰囲気に似た荒木町に店を出すようになったらしい。

ご主人の植村友二朗さんは京都「和久傳」などで修業をして2010年に独立。お店はカウンター(6 or 7席)だけのいたってシンプルな作り。すべての料理をカウンター前で穏やで人の良さそうな植村さんが調理してくれることもあり、どことなくアットホームな感じ。また、彼をフォローするアシスタントのバイトくんも超優秀で気配りに余念がない。

さて、この日いただいた献立は下記の通り。

・淡路産鯖のあぶり寿司
・九十九里産蛤餡の湯葉蒸し
・自家製からすみ
・いちじくの田楽
・お造り(大トロ、つぶ貝、鯛)
・タラのしらこ餅のスッポンスープ
・越前産セイコ蟹
・対馬産のどぐろ
・雲丹の茄子乗せ
・萩産クエの酒蒸し
・丹波産栗の穴子モンブラン
・厚岸産大黒ししゃもの天ぷら
・いくらごはん
・静岡産生シラス
・モナカ入り自家製アイス

日本酒
・湊屋藤助(新潟)
・日高見(宮城)
・東一(佐賀)
・雨後の月(広島)
・鍋島(佐賀)

いきなりお寿司と少しびっくりしたが、脂ののった鯖を幾分緩め加減で酢締めして、甘みのシャリと合わせた一品。2品目の湯葉蒸しは京料理の定番の1つだが、九十九里産の蛤餡が優しくオブラートされていてとても上品な一皿である。

 

自家製カラスミは天草産のボラの卵巣を約1ヶ月塩漬け天日干ししたものだが、まだちょっと走りの段階。そのせいか、お酒のアテとしては少し物足りない感じ。続くいちじくの田楽は上から白味噌と練りごまで味付けされているのだが、これは絶品。甘みとトロみがうまく溶け合い、コース料理序盤のデザートもしくは箸休めと言ったところだろうか。

 

お造りの大トロはボストン沖で獲れた200kg級の大物。大間だろうがボストンだろうが、やはりマグロは大きいものが美味しい。つぶ貝は北海道霧多布産の大粒貝。それゆえに内臓部分は毒があって食べれないとか。鯛は鹿児島の天然ものでコリコリで歯ごたえがいい。で、私が一番喜んだのがわさび。静岡市有東木の極太わさびをすり下ろしたもので、その粘りと甘辛さは飲兵衛にはたまらない。旨いわさびはそれだけで酒が飲める! こうなると、酔いが少し回ってきた私らと寡黙そうだった大将との会話もリラックスし始める。(笑)

 

タラのしらこ餅のスッポンスープは見た目はどことなくお雑煮のように見えるが、コラーゲンたっぷりで、それに山形県庄内産の赤ネギの甘みが絶妙にマッチングしていて、なんか一足早いお正月気分にさせてくれる。越前セイコガニは2杯酢のジュレで味付けされているが、これは舌が蕩けるような至福的な美味しさ。

 

そして、のどぐろは長崎県対馬の紅瞳ブランドもので、フワッとした妙妙たる焼き方は旨味を凝縮していて、これまで食べたのどぐろの中でも文句なしに一番。添えられているフルーツほおずきは、相方の好物らしいのだが私は初めて。見た目はプチトマトだが、味は南国フルーツのような甘みがあり、これが中盤のデザートというか口直しという雰囲気だろうか。


 

さて、終盤戦である。w 雲丹の茄子乗せは群馬県産青ナスに北海道浜中産の極上雲丹。これなら食材さえあれば自分でも作れるなあ、なんて思いながら食べたが、すぐにそれが愚かであることを悟る。もう飲んでいてよくわからなかったが、料理人の小技は凄い。萩産のクエは程よく柔らかく、京料理風の出汁もエレガント。続いて出てきた穴子の食べ物は何かなと大将に聞くと「穴子のモンブラン」という答えが。それには思わず苦笑してしまったが、穴子の下には特大の丹波の蒸されたのか裏ごしされた栗が隠れているではないか。なるほどと思わされる一品だった。

 

大黒ししゃもは通常の2倍以上の大きさのもので、北海道厚岸の特産品とか。脂ののりが非常によく普通のししゃもより味に深みがある感じ。初めて食べたけど、ちょっとクセになりそうな苦味と渋味と甘味がある。いくらごはんも美味しかったが、それ以上に美味しかったのが生シラス。駿河湾でその日に獲れたもので、新鮮なプリプリ感は飲兵衛には堪らない。こういうシンプルなものほど日本酒にマッチしてしまう。そして、最後のモナカアイスは長野産の洋梨を使った自家製アイスに15年もののシェリー酒の味付けがされたものだった。

 

ということで、全部で味も生産地も色とりどりの15品。ボリュームもあり、飲兵衛への料理としてはこの上なし。恐悦至極な品々であった。ただし、お酒が飲めない人には申し訳ないが、この店をお勧めすることはあまりできない。また、ある程度料理や食材の知識がある人と訪れた方が、店主との会話も進むかと思う。その意味においては、ここは大人のというか通の人にお薦めの店である。

 

四谷 うえ村割烹・小料理 / 四谷三丁目駅曙橋駅四ツ谷駅

夜総合点★★★★ 4.4





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