土曜日, 11月 10, 2007

諏訪内晶子&パリ管弦楽団

7日に続いて、一昨日(8日)もサントリーホールでパリ管弦楽団の演奏会を聴いてきました。指揮はクリストフ・エッシェンバッハ。ヴァイオリンは日本の至宝・諏訪内晶子。7日のラン・ランのときは女性客や女子高生が多かったサントリーホールだったが、諏訪内になると俄然背広姿の男性陣が目立った。

7日の公演も素晴らしいものがありましたが、8日の公演はもう興奮の坩堝でした。チケットを買ったときはプログラムからすると「1日目の方がいいのかなぁ」なんて思っていましたが、どうしてどうして、もう昨日の公演は大当たりです。万馬券をとったような気分でした。高いお金出して2日間のチケットを買ったかいがありました。パリ管よ、ありがとう。

演目(※はアンコール曲)
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲二長調
※バッハ/無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番よりアンダンテ
  〜休 憩〜
ラヴェル/ラ・ヴァルス
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「火の鳥」組曲(1919年版)
※ラヴェル/ボレロ

1曲目の『ヴァイオリン協奏曲』。冒頭から諏訪内晶子の1714年製ストラディバリウス「ドルフィン」が唸ります、呻きます、軋みます、泣きます、叫びます。私はこれまでに諏訪内が奏でるこの協奏曲を2度ほど聴いているが、昨晩の演奏はもう鬼気迫るものであった。

諏訪内は出産のために昨年はほとんど演奏活動を行いませんでしたが、今年に入って再開。5月にミューザ川崎で見たときより、幾分ふっくらした感じで貫録さえ感じます。そして、その音色も以前にもまして豊饒です。低音部には明らかに母親としての強さが加わり、高音部に技術的な精密さが増した感じがしました。昨日のラン・ランを「いま最高のピアニスト」と書きましたが、諏訪内ももはや「日本の至宝」ではなく、名器「ドルフィン」と共に「世界の至宝」になりました。

プログラムには、この協奏曲は初演のときヴァイオリンの名手や批評家たちにけんもほろろにされそうだが、この人たちがもしいま諏訪内の演奏を聴いたら、何というだろうか。私は「この協奏曲は諏訪内晶子とドルフィンのためにある。いや、諏訪内晶子とドルフィンのためにこの協奏曲は生まれた」と言いたい。

さて、休憩を挟んで後半のプログラムであるが、諏訪内に酔いしれてしまった私は、休憩時間には普段はビールだけしか飲まないのに、ワインまで飲んでしまった。(笑)

『ラ・ヴァルス』とはフランス語でワルツという意味で、本来はバレエ音楽として書かれている。全体に流れるゆるやかなメロディを、エッシェンバッハは弦と2台のハープを巧みに操りながら、ちょっと幻想的で優しい音色を築き上げていった。これを聴いているとき、パリ管の十八番は昨日の『幻想交響曲』のような交響曲ではなく、バレエ音楽なのではないかと思ったが、その予想はいみじくも的中する。

3曲目の「火の鳥」組曲(1919年版)。これぞパリ管というキラビヤカにしてオシャレな演奏だった。一昨日はパリ管の弦の上手さに驚かされたが、昨日は弦の上回る木管金管打楽器陣の艶やかさを堪能させてもらった。なかでも、この曲の最後を飾るところでのトランペットとトロンボーンの上品な響きは、残念ながら日本のオケでは聴くことはできない。終演後、エッシェンバッハはクラリネット(昨日の頭剥き出し感情むき出しの人ではなかった)やファゴットなどの木管の首席をスタンディングさせていたが、私は金管のみなさんに最大の拍手を送っていました。ブラボー!

そして、アンコールがなんと『ボレロ』。『ボレロ』がアンコールなんてもちろん初めてである。ところが、いきなりアクシデント。フルートがメロディを奏ではじめると、第2ヴァイオリンの首席のお兄さんが咳込んでしまったのです。でも、エッシェンバッハは演奏を止めません。そして、なんとエッシェンバッハはタクトを振っていません。アイコンタクトで指揮をしている。咳込んでいるお兄さんは涙目ですが、演奏は続いていく。クラリネット、バスーン、ソプラニーノクラリネット、オーボエ・ダモーレ、トランペットと続いていく。そして、弦のピッチカットあたりで咳も止まり、オケは徐々にエンジンもフル回転です。そして、オケが完全に一体化して、音響もグラデーションのように上がっていき、最後にはサントリーホールの空間には情熱の赤い炎が陽炎のように見えました。凄かった。

至福の2日間だった。

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