月曜日, 11月 19, 2007

ゲルギエフのNHK音楽祭

今年のNHK音楽祭はオペラ・バレエ音楽を主体にした音楽祭で、登場するオーケストラはパリ管弦楽団、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団、マリインスキー劇場管弦楽団、そしてNHK交響楽団と錚々たるメンバーで行われている。すべての公演を聴きにいきたいところだが、そこまで経済的余裕はとてもないので、このなかから演目も吟味してワレリー・ゲルギエフ指揮のマリインスキー劇場管弦楽団選んだ。

この日は10数年ぶりの「妹」とのデート。久しぶりに会う彼女は体型こそ変らないが、以前に比べてすっかり落ち着いていた。その彼女に「コンサートに行くのは10数年前に一緒にサントリーホール以来」と言われて、「え、そんなことあったっけ」とまるで記憶にない私は完全に50過ぎのオッサンだ。国会議員の言う「記憶にありません」が笑えなくなってしまった。

さて、NHKホールは2日前に定期公演で行ったばかりなのだが、ロビーなどは赤と黒のペナントや花が飾ってあり、なんか音楽祭というよりクリスマス・ムード。客席は休日公演ということもあるせいか、チケットは前売の段階で完売になっていたために満席。我々の席は2階席なのだが、こちらは勝手知ったるホールなのですんなり着席できるが、この日は初めてここを訪れる人も多く、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。加えて、2階席の案内係のお姉さん2人は全くのド素人。これまたあっちへ行ったりこっちへ行ったりで失笑すらかっていた。サントリーホールではとても考えれない光景だったので、これには私もアングリだった。

マリインスキー劇場管弦楽団はロシアのピョートル大帝時代の18世紀に創設された。1860年からはサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場にて、数多くのオペラ、バレエを初演して名声を極めた。20世紀に入ってからも、ムラヴィンスキー、テミルカーノフといった優れた芸術監督の下で名演奏を行ってきた。そして、1988年ゲルギエフがオペラの芸術監督に選出され、彼は新人歌手を発掘・成功させて、マリインスキー劇場および管弦楽団の名を世界のトップレベルまで引き上げた。

演目(※アンコール曲)
チャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」から
プロコフィエフ/バレエ音楽 組曲「ロメオとジュリエット」から
  〜休 憩〜
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」
※チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」からパパドゥ
※プロコフィエフ/オペラ「三つのオレンジへの恋」から行進曲
※チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」からトレパック

最初に結論の半分、これまでNHKホールでいくつかのオケを聴いてきたが、このマリインスキーほど音量のあるオケを聴いたことはない。ホールの大きさを考えてなのかもしれないが、普段聴くN響の1.2倍いや1.5倍は音がでかい。

1曲目の「白鳥の湖」。当初の予定は「眠りの森の美女」第3幕の演奏だったが、この演目変更は大正解だったようだ。いきなりあの有名なメロディなのだが、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリン総勢28人が一糸乱れず弓を弾くのである。もちろん、音色も素晴らしい。ロシアのオケというのはあんまり聴いたことがないのだが、人づてに「弦も弓もボロボロだから」などと聞いていたが、そんなことは全然ない。金満ロシア経済が背景にあるせいか、弦も弓もしなやかで緊張感みなぎる音を奏でる。さすがチャイコフスキー、さすがゲルギエフという見事なものであった。

2曲目は難曲のプロコフィエフ。ここでも第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンは乱れません。しかし、これでは第一と第二に分かれている意味がないのでは・・・。そして、ゲルギエフは金管をこれでもかというぐらい音量を上げる。おかげで、木管がまるっきり聞こえない。金管フェチには嬉しい演奏かもしれませんが、音のメリハリやバランスを重視する私にとってこの演奏は完全にペケ。ゲルギエフが大音量主義なのかどうなのか知らないが、もし、この演奏を褒めるような評論家がいたら顔がみたいくらいであった。2階席にいても耳鳴りがするぐらいの超弩音響の演奏で正直辟易した。もう少し、音の出し入れ、抑揚と考えて指揮をしろといいたい。大きい音を出せばいいってもんじゃないぞ、ゲルギエフ。

休憩を挟んで本日のお目当ての「春の祭典」。舞台には100人近いメンバーがいる。あ〜、また大音響か〜と危惧してしまう。しかし、今度はそんな危惧も徒労に終わる。冒頭のファゴットやフルートなどの木管の音色が弱音ながらも美しい。そして、ジャンジャンジャンジャンとチェロの低音が響き渡る。いいです。痺れます。イケテマス。広いNHKホールの白い壁面を流れるかのように音が伝わってくる。ゲルギエフの指揮も前2曲と違って、身体を大きく動かしながらも慎重かつ繊細だ。時折、あまりない前髪を掻き上げては指揮をする姿はご愛嬌だが、音へのあくなき追求する姿勢はその後ろ姿からビシビシと伝わってくる。最後の《いけにえの踊り》では全身全霊をこめて指揮している印象をうけた。

私にとって今回が初ゲルギエフだったが、衝撃的な印象はさほどなかった。音量は別にして指揮そのものは大胆というわけでなく、割りとオーソドックスなタイプと見受けした。聞くところによるとゲルギエフと東京交響楽団の演奏がすばらしかったようなので、ロンドン交響楽団だけでなく日本にも単身指揮者としても来日してタクトを振っていただきたい。

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