金曜日, 3月 27, 2009

藤沢周平の「海坂藩大全」(上下巻)を読む


海坂藩(うなさかはん)とは藤沢周平が書く時代小説に登場する架空の藩の名前である。モデルは彼の出身地である城下町・鶴岡、そして港町・酒田を擁する庄内藩である。

本の解説によると、藤沢周平は生涯に短編・長編合わせて250以上の作品を執筆したが、そのなかで海坂藩を舞台にした作品は長編が9篇、短編が22篇あるそうだ。ただ、他にも海坂藩を舞台にしたと思われそうな作品はいっぱいある。この「海坂藩大全」には短編22篇のうち21篇が収録されている。

藤沢が海坂藩を舞台にした小説に登場する主人公は、そのほとんどが100石以下の下級武士で剣術の使い手だ。そして、藩のいざこざ(派閥争い)に巻き込まれるという話が多い。しかしながら、彼が描く海坂藩の情景は四季おりおりに富み、下級武士がもつ慎ましやかさ、悲哀さなどを見事に描いていて、淡い色の郷愁に包まれた藤沢ワールドを築いている。

収録されている作品は直木賞受賞作である「暗殺の年輪」をはじめ、公儀隠密の長期にわたる探索を綴った「相模守は無害」などを描いた剣客小説が多いが、そんななかで私は「花のあと」や「山桜」など武家の女性にスポットを当てた小説に感銘をうけた。それは藤沢が武家の娘がもつ強さと弱さを相対的に描いているからだろう。


少し余談になるが、この本は字游工房という写植デザイン会社(高田馬場)が「藤沢周平を組む」という合言葉に開発された“游明朝体”という書体を使って印刷されている。しかしながら、この書体を開発中に初代社長で書体デザイナーの第一人者だった鈴木勉さんは逝去された。この「海坂藩大全」は鈴木勉さんに捧げられた本であるだろう。

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