火曜日, 3月 16, 2010

映画『花のあと』を観る

藤沢周平作品の映画化は難しい。それにはいくつかの理由がある。まず第一にNHKがドラマで『腕におぼえあり』や『蝉しぐれ』といったかなり質の高い作品を作っていること。第二に、最初に映画化された『たそがれ清兵衛』(監督:山田洋次、出演:真田広之・宮沢りえ)がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど国内外で高い評価を受けたこと。そして、なによりも藤沢周平の世界をいかに映像美として表すかということ、である。

『たそがれ清兵衛』以降、『隠し剣鬼の爪』(監督:山田洋次、出演:永瀬正敏・松たか子)、『蝉しぐれ』(監督:黒土三男、出演:市川染五郎・木村佳乃)『武士の一分』(監督:山田洋次、出演:木村拓哉・檀れい)『山桜』(監督:篠原哲雄、出演:田中麗奈・東山紀之)と4作品が公開されたが、残念ながらこれといって納得のいく作品はなかった。

さて、今回の『花のあと』(監督:中西健二、主演:北川景子)だが、やはり『たそがれ清兵衛』のような完成度には遠かったが、それでも後の4作品よりは俄然面白かった。主演の北川景子はセリフ回しには難があるものの、顔の表情や所作には北国の女性らしい奥ゆかしさを演じ、殺陣ではまったく相手に臆することのない見事な剣さばきを見せ、女優魂を垣間見せてくれた。

この作品の面白さはキャスティングの妙である。硬軟、新旧取り混ぜたと書いたら出演者に失礼かもしれないが、そのスクラブルさが非常に上手く噛み合っていた。藤沢周平世界にはいかにもという國村準、柄本明、市川亀治郎、藤村志保(語り)といったベテラン陣に対して、宮尾俊太郎、相築あきこ、佐藤めぐみ、谷川清美と少し意表を突いた出演陣も好演だった。そして、なによりも主演の北川景子を引きたたせた甲本雅裕が素晴らしかった。

甲本雅裕は80年代後半から90年代前半に活躍した三谷幸喜率いる「東京サンシャインボーイズ」のメンバーとして、相島一之、梶原善、西村雅彦、伊藤俊人、阿南健治らと共に舞台でいろいろな役柄(三枚目が多かったかも)を演じた。その後テレビや映画に刑事役や犯人役などで数多く出演している。

しかしながら、今回の婿殿役は甲本雅裕のこれまでの役者人生で最大級の役柄といっても過言ではなかったのではないだろうか。それを彼は見事に演じきり、少し変わった角度からの藤沢周平の世界を醸し出してくれた。最後のシーンで彼の笑顔がアップで映し出されたとき、新宿シアタートップスの狭い舞台で駆けずり廻っていた彼の姿を思い出し、不覚にも目に熱いものが浮かんでしまった。

『花のあと』公式サイト
http://www.hananoato.com/

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